【15】
集合住宅の吹き抜け
一方、C棟も同じようなガラス屋根ながら人が歩行できるスペースも確保しているようです(筆者は未見)。
吹き抜けに面する壁が微妙に傾斜している(右の写真)のは視覚効果を狙ったのでしょうか。垂直な壁面は意地でも造らないところが脱構築主義のコープ ヒンメルブラウらしい。
【16】
閉鎖的な内部
私としては新旧部分の取り合わせのデザインに期待していたので、ここまで閉鎖的なプランに正直言ってやや失望したことは否めません。これはおそらく、古い部分を直接見せるばかりが歴史性の表現ではないと設計者は考えているのでしょう。
【17】
ユニークなメゾネット
右の写真は私の後輩の住戸の玄関ドアを開けたところ。入るなりいきなり階段を下るのには驚きました。要するに、玄関だけが上階で他の部屋はすべて下階という変則的なメゾネットなのです(実質的にはフラットといえる)。フラットやメゾネットが入り組んだ複雑な断面のせいでこのような住戸が生じたようですが、それにしても日本ではまずあり得ませんね。
【18】
住戸内部
【19】
奇妙な隙間
窓の外が暗いのは見えているのがガスタンク外壁の内側だからで、写真18右下の小さな開口部がガスタンク時代のフェイクの窓。ガスタンク外壁と集合住宅との間には狭い隙間があります(写真19)。古い部分を見せるためにしては暗くて狭いし、なぜこんな中途半端な空間が生じたのでしょうか。
居室がドーナツ状建物の内側にあれば吹き抜けから採光と換気はできます。ところが、ガスタンク外壁側にある居室では、昔のフェイク窓しか外に通じる開口が取れません。この場合、フェイク窓と居室の位置が合っていれば、フェイク窓を本物の窓に利用できますが、B棟ではプランニングの都合上、両者の位置が上手く合わせられなかったようです。
おそらく隙間はこの対応策だと思われます。ガスタンクと集合住宅の間に半屋外空間となる中間層を設けて、集合住宅の窓はこの隙間に対して開くことで、開口部位置の不整合を処理したのでしょう。
ただし、採光や眺望を重視する日本人にはこの部屋の居住性は良いとは言い難いですし、ドーナツ状の集合住宅は向かい側から覗き見されやすい点も気になるところでしょう。それらにあまり拘らず、むしろ多少のデメリットも含めた新旧のデザインの出逢いや衝突といった部分に、古い建物のコンバージョンやリノベーションの面白さがあります。
名称 | ガソメーター(ガゾメーターとも) Gasometer |
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設計者(ガスタンク) | フランツ カパウン Franz Kapaun |
設計者(増改築) | A棟:ジャン ヌーベル Jean Nouvel B棟:コープ ヒンメルブラウ COOP HIMMELB(L)AU C棟:マンフレド ヴェドルン Manfred Wehdorn D棟:ヴィルヘルム ホルツバウア Wilhelm Holzbauer |
所在地 | ウィーン11区 |
用途 | 当初:ガスタンク 増改築後:複合施設(店舗、集合住宅、オフィス、ホール等) |
竣工 | 当初:1896年 増改築:2001年 |
構造 | 鉄筋コンクリート造 |
交通 | 鉄道:地下鉄U3号線 Gasometer 駅下車 |
参考文献
- 『a+u』2002年5月号、新建築社
- 『建築文化』2002年2月号 特集:ウィーン20世紀建築MAP、彰国社
- 『世界の建築・街並みガイド5』33頁、エクスナレッジ
リンク
- Gasometer City 公式サイト
- ジャン・ヌーベル、コープ・ヒンメルブラウ ウィキペディア
- Gasometer, Vienna ウィキペディア(英語)
謝辞
筆者のウィーン滞在中、ウィーン工科大学に留学していたO君にはガソメーターやウィーン各所の建築見学などでたいへんお世話になりました。御礼申し上げます。
公開日:2003年6月15日、最終更新日:2011年6月18日、撮影時期:2002年1月
カメラ:Nikon COOLPIX 775(Photoshopで修正)