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著名な集合住宅が並ぶウィーン
ウィーンには建築史上、重要な集合住宅がいくつもあります。ひとつは初期の公営住宅にして社会主義創設者の名前を冠するカール マルクス ホーフ。ふたつめはアドルフ ロースの設計によるロースハウス。装飾を抑えて物議を醸したシンプルな建築で下階がテナント、上階が集合住宅となっています。オットー ヴァーグナーのマジョリカ・ハウス(ぴんごー版、タケ版)も見落とせません。そしてここで紹介するフンデルトヴァッサー ハウスは、ウィーンを拠点に活動していた芸術家フンデルトヴァッサーの建築デビュー作です。
機能充実の公営住宅
フンデルトヴァッサー ハウスは低所得層を対象とするウィーンの市営住宅で、日本の地方自治体の公営住宅と同じ位置付けですが、温室や子供のためのプレイルーム、レストラン、診療所、屋上庭園など日本と比べるとかなり充実した機能を備えています。
たちまち観光名所に
完成するなり大胆なデザインが受けてウィーンの観光名所となり、この成功によってフンデルトヴァッサーはオーストリア各地やドイツ、日本で建築の仕事を手掛けるようになります(日本では大阪市のゴミ焼却施設や下水処理施設の外観デザイン等)。
【03】
外観の特徴
建物は角地にあり、コーナー部から階段状に1階分ずつ高くなっていくセットバック構成になっています。コーナー部にはバルコニーが張り出して、そこにはレストランが入っています。
フンデルトヴァッサーは建物の壁面装飾と緑化に特にこだわりを持っていたらしく、確かに外観からそのポリシーが一目で分かります。特に屋上緑化は過剰なほどで、芝生どころかけっこう背の高い木も植えていて、ちょっとした小山のようです。
このような派手な外観は下手をすると下品なイメージに陥りがちですが、私が実際に見てみると、壁の質感のせいか意外と落ち着きがあるなとの印象を受けました。
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モダニズムへの反発
また、建物内外の緑化はエコロジー建築を先取りしたものと評価できるでしょう。2層吹き抜けの奥に見えるガラス面の内部は温室になっています。
【05】
設計の実情は
よく言えば芸術家の自由な表現、悪く言えば適当に塗りたくっているだけにも思える壁面は、フンデルトヴァッサーの絵画作品をモチーフにしています。正規の建築教育を受けた人間にはなかなかできないデザインですが、実際問題としてフンデルトヴァッサーは建築の専門知識を持たないので、設計の大部分は彼のサポート役である建築家のペーター ペリカンが決めているとも言われています。
したがって、形状や色彩などのデザインにフンデルトヴァッサーとペリカンのどちらの考えがどの程度まで反映されているのか、正直いって分からないのが実情です。つまりフンデルトヴァッサーの建築とは、彼の芸術家としての知名度を利用したデザイナーズ建築と理解するのが妥当なところかも知れません。
そのことを批判的に捉えるよりも、公営住宅やゴミ処理場のデザインにフンデルトヴァッサーを起用して観光地にプロデュースしたウィーン市当局の手腕を評価すべきでしょう。さすがは芸術の都として長い歴史を誇るだけのことはあります。
名称 | フンデルトヴァッサー ハウス Hundertwasser Haus |
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設計者 | フリーデンシュライヒ フンデルトヴァッサー + ペーター ペリカン Friedensreich Hundertwasser + Peter Pelikan |
所在地 | ウィーン3区 |
用途 | 集合住宅 |
竣工 | 1986年 |
構造・規模 | 構造:鉄筋コンクリート造か? 面積:未確認 |
交通 | 鉄道:路面電車 Hetzgasse 駅下車 |
備考 | 店舗や飲食店に客としてなら立ち入り可。住居部分は立ち入り禁止。 近隣にフンデルトヴァッサー関連のミュージアムショップあり。 |
マーカー上からクンストハウス ウィーン、フンデルトヴァッサー ハウス
参考文献
- 『ヨーロッパ建築案内2』TOTO出版
- 『世界の建築・街並みガイド5』エクスナレッジ
- 『X-Knowledge HOME』2003年6月号、エクスナレッジ
- 『フンデルトヴァッサー』ピエール レスタニー、タッシェン ジャパン
リンク
公開日:2002年10月5日、最終更新日:2011年6月11日、撮影時期:2002年1月
カメラ:Nikon COOLPIX 775(Photoshopで修正)