photo00
第二緑ヶ丘団地 ( 1/3 )
Second Midorigaoka Housing Complex
福岡県遠賀郡芦屋町、INA新建築研究所、1975(昭和50)年
photo101

【01】
photo102

【02】

第二緑ヶ丘団地の概要

第二緑ヶ丘団地は福岡県の芦屋町にある民間の団地です。同町は福岡県の主要河川である遠賀川の河口に位置し、現在は北九州市のベッドタウンになっています。また、茶道の世界では名器「芦屋釜」の生産地として知られています。
 
もともと第二緑ヶ丘団地は日本鋳鍛鋼という企業の社宅として建てられたもので、後に一般向けの賃貸集合住宅になりました。高層棟と中層棟が4棟ずつ、計8棟の板状住棟がおおむね南向きに平行に並ぶ、団地としてはオーソドックスな配置計画です。
 
この団地はINA新建築研究所という大手設計事務所の仕事ではありますが、建築ガイドブックや設計資料集に掲載されるような有名建築ではありません。しかし、写真を見れば分かるように、住棟は実に独特な設計がなされています。

photo03

【03】一般的なスキップフロア住棟

スキップフロアとは

第二緑ヶ丘団地の説明の前にまずスキップフロアについて述べておくと、集合住宅の分野では片廊下を数階おきに飛ばした設計のことをいいます。
 
現在の集合住宅の主流である片廊下型住棟の場合、廊下側の部屋は通行人の視線が気になる、廊下が深い庇になって日当たりが悪い、という欠点があります。そこで片廊下の階を減らし、階段からアクセスする階段室型と組み合わせたのがスキップフロア型です。片廊下に面しない住戸は前述の心配がなく高い居住性を確保できます。
 
ただし、廊下に面するかしないかで住戸に不平等が生じる、面しない住戸への動線が複雑になるといった欠点があります。しかも、階段を通じてアクセスする住戸はバリアフリーの点からは不利なので、近年はスキップフロア型はまったくといっていいほど建設されなくなりました。

photo103

【04】

片廊下の分離をいち早く実現

廊下に面する住戸の不平等を解消するには片廊下を建物本体から分離すればよい、このように考えた設計者は少なくないでしょうが、構造が大げさになってしまうので実際はなかなか難しい。それを本当に建設してみせたのが第二緑ヶ丘団地のすごいところです。
 
また、このようなブリッジ状廊下というか空中廊下というべきアクロバティックなデザインの集合住宅としては、遠藤剛生氏が設計した千里山ロイヤルマンション(1983、大阪府吹田市)が有名ですが、それより早く竣工していたことも特筆に値します。
 
他には、岐阜県住宅供給公社が建設した分譲住宅のコーポ田神(1981、岐阜市、設計者未確認)や、小宮山昭氏らが設計した新渡鹿団地(1993、熊本市)も、大胆な空中廊下を設置しています。

photo104

【05】

土木的なデザイン

photo120
凸状に突き出した階段・エレベーターのシャフトの間に鉄骨トラスの廊下を架けており、廊下は構造的には橋梁とほとんど同じです。これは建築よりも土木的な発想のデザインといえるでしょう。橋梁を三段に重ねたような立面は実に迫力があります。
 
右の写真のように廊下と住棟は分離していて廊下の内側に窓は無いので、どの住戸も気兼ねなく窓を開けられます。廊下の影は生じるものの、従来の片廊下型に比べれば明るいでしょう。
photo105

【06】

レトロフューチャー

photo121
4棟ある高層棟のうち、理由は分かりませんが1棟のみデザインが異なっています。鉄骨が露出しないシンプルなデザインの空中廊下は、古いSF映画に登場する未来都市のようなレトロフューチャー的な印象を受けます。
photo106

【07】

表裏の立面のギャップ

photo122
廊下側の特徴的なデザインに比べるとベランダ側はごく普通の立面です。あまりにも普通なので少々拍子抜けするところですが、両面のギャップが面白いという見方もできるでしょう。
 
また、平凡な立面なのに何か違和感を覚える人がいるかも知れません。それは、手の込んだ立面構成が主流の現在のマンションを見慣れているからです。昭和時代の集合住宅は、1階から最上階まで変化のない一様な立面でよしとしていました。今ではむしろ無装飾の大きな立面に迫力を感じます。
inserted by FC2 system