【02】
博多湾に浮かぶ人工島の公園施設
「ぐりんぐりん」とは、博多湾の人工島アイランドシティの公園にある福岡市の公共施設の名称です。2005年秋に開催された人工島のオープニングイベント「第22回全国都市緑化フェア アイランド花どんたく」におけるメインパビリオンとして建設された後、現在は温室や体験学習施設に使われています。
設計者はコンペで選ばれた建築家の伊東豊雄氏で、ぐりんぐりんという名称は市の公募で決定しました。おそらく、名曲『グリーングリーン』に掛けたと思われるこの名称は、温室という用途や屋上緑化を施した建物として、さらにグネグネと曲がった形状の建物にとって、実に相応しい名称といえるでしょう。
【03】
自由曲面の構造
普通の建物は、垂直な壁・柱や水平または一定勾配の屋根で構成されていますが、ぐりんぐりんは一目で明らかなように従来の水平・垂直な感覚では把握できないデザインになっています。
エーロ サーリネンやフェリックス キャンデラといった先駆者が設計したコンクリートシェル建築と比較すると、伊東氏のぐりんぐりんは、より自由で、開放的で、大地と一体感した、建築の新境地を追求する意図が感じられます。
【04】
「シームレス」な建築
目地のない自由曲面がスパイラル状にねじれて外部・内部空間が連続していることや、屋上緑化を施した表面が地盤面から連続しているように、ぐりんぐりんのデザインのポイントは「連続性」にあります。伊東氏は建築雑誌の中でこれを「シームレス」という概念で説明しています。
ただし、温室は室内環境の厳密なコントロールを必要とするために外部と区画せざるを得ず、その界壁をガラスにしても空間の連続性が若干スポイルされている点が惜しいところです。
【05】
屋上を歩かせることの難しさ
このスポイルの問題は外部にもあって、屋根の通路やその手すりの存在が意外と目障りで、自由曲面の形を見えにくくしています。丘のような屋根を自由自在に歩ければ理想的なのですが、トップライトの安全対策やバリアフリー対応等から通路を設置しないわけにはいかないので仕方ないでしょう。この点は伊東氏も認識しています。 註1
【06】
建物の存在意義の矛盾
さて、屋上緑化された建物だけを見ると「自然との共生」や「エコロジー」の理念を体現しているように思えるでしょうが、実は必ずしもそうとは言い難いことを指摘しておきます。
冒頭で述べたように、ぐりんぐりんが建っているのは博多湾に建設された人工島です。未だに利用方法が定まらない広大な更地を屋上から見ると、海を埋め立てた土地の建物で自然との共生を唱えることの矛盾を感じずにはいられません。