photo00
今村教会  ( 1/2 )
Imamura Church
福岡県三井郡大刀洗町、鉄川与助 1913(大正2)年
photo01

【01】
photo02

【02】

田園地帯にそびえる教会

福岡県から佐賀県にかけて広がる九州最大の田園地帯である筑紫平野。その一角を占める福岡県大刀洗(たちあらい)町に今村と呼ばれる集落があります。今村は表面的には周辺と同じような小さな集落に過ぎませんが、ひとつだけ大きな違いがあります。今村教会の存在です。
 
典型的な田園風景の中に見事なレンガ造教会が建っている様子は、実に不思議でなりません。なぜ、こんな小さな村に立派な教会があるかというと、ここが隠れキリシタンの集落だったからです。隠れキリシタンは、江戸時代に主に長崎県や熊本県天草の僻地に潜伏していたことが知られていますが、他の地方にも孤立した潜伏地が何カ所かありました。今村もそのひとつです。

photo03

【03】

今村の歴史

今村にキリシタンが生まれたのは1500年代中期から末期頃といわれていますが、誰がどのように伝道したのか、いくつかの説はあるものの明確には分かっていません。いずれにせよ「島原の乱」後に本格化したキリシタン弾圧の下、辺境の地ならまだしも、田園地帯の真っ只中で二百数十年も密かに信仰を守り続けたとは驚くべき話です。
 
幕末に長崎が開港されると、滞在する外国人のために大浦天主堂が建立されました。そこを長崎の隠れキリシタンが訪れ、神父に信仰を打ち明けた歴史的な出来事は「信徒発見」と呼ばれています。以後、教会側は隠れキリシタンの探索を行い、1867(慶応3)年に今村の信徒が発見されました。当時はまだキリスト教の禁令が解かれておらず、幕末から明治初頭かけて何度か村人が投獄されたりもしましたが、禁令解除後の1879(明治12)年にフランス人宣教師が今村に着任します。当初は土蔵が教会代わりで、1881(明治14)年に木造の教会が建てられました。

photo04

【04】

教会建設の背景

やがて信者の数が増えて教会に収容しきれなくなり、一部は外に立ったままミサを受ける状態になりますが、周囲の仏教徒がその有様を見て蔑むこともあったようです。現在の今村教会があれほどの威容を誇るのは、ひとつには苦難を耐えてきた信者が立派な教会を持ちたいという気持ち、さらには無理解な人々にキリスト教の素晴らしさを目に見える形で示す意図があったと思われます。
 
現教会は五代目に着任した本田神父の主導で建てられました。建設資金はドイツに寄付を募るなどして調達、そして設計・施工を鉄川与助 註1 に依頼します。

photo05

【05】

建築的な特徴

photo20
鉄川が設計した教会の中でも今村教会は最高傑作といわれています。最大の特徴はファサードの双塔です。日本で双塔を持つ教会は少なく、とりわけ九州では珍しい。 様式はロマネスク。
 
太田静六氏の『長崎の天主堂と九州・山口の西洋館』によると、双塔の教会はフランスでよく見られるが同国は方形(四角形)が多く、今村教会のような八角形はドイツに比較的多いが、それでも珍しいデザインとのこと。太田氏の下の学生が鉄川与助に聞き取り調査したところ、外国人神父が持っていた教会の写真を参考にしたそうですが、具体的にどこの教会だったのかは分かりません。
 
また、今村教会と同時期の施工で1914(大正3)年に竣工した長崎市の旧浦上教会(原爆で崩壊)が方形双塔を持っており、鉄川はそちらの施工にも関わっていたのでデザインを意識した可能性はあります。
photo06

【06】

ふたつのバラ窓

photo21
中央のバラ窓の上にレンガでバラ窓を模した装飾を付けて、バラ窓がふたつあるように見える点も、ファサードの大きな特徴です。普通はひとつのはずで、バラ窓がダブルとは珍しいのではないでしょうか。

内部空間

内部については撮影禁止なので写真は掲載できませんが、平面は三廊式で天井はリブ ヴォールト。十分な天井高を有する見事な内部空間に、フランス製ステンドグラスを通した光が差し込んでいます。

photo32

ファサード中央のアーチ部分
photo33

正面玄関の欄間
photo31

側面出入口の上部の装飾
photo34

裏口の庇を支える持ち送り
名称

今村教会(今村天主堂とも)

Imamura Church

設計者

鉄川与助

TETSUKAWA Yosuke

所在地

福岡県三井郡大刀洗町大字今707

用途

教会

竣工

1913(大正2)年

構造

レンガ造(組積造)

交通

車:大分自動車道 筑紫小郡IC > 県道53号 > 県道14号

鉄道:西鉄甘木線 大堰駅下車 徒歩約20分

備考

ここは信仰の場です。見学の際は教会や信者の方々の迷惑とならないよう十分な配慮をお願いします。内部撮影禁止。


補注

  1. 長崎県を中心に多数の教会を手掛けた当時における教会建築の第一人者。詳しくはこちらの記事を参照のこと。 

リンク

  1. 長崎の教会福岡教区今村教会
  2. 長崎県東京事務所大いなる遺産ながさきの教会今村カトリック教会堂
  3. YOMIURI ONLINE 九州発エンタメ近代遺産を訪ねて今村教会堂
  4. BS日テレ 知られざる百年遺産 わが町の建築物語放送内容第159回放送 教会建築の名手の傑作「今村カトリック教会」の物語
  5. 旅する長崎学教会巡礼のマナー
  6. 今村教会鉄川与助 ウィキペディア

参考文献

  1. 『長崎の天主堂と九州・山口の西洋館』太田静六、理工図書
  2. 『奇跡の村 隠れキリシタンの里・今村』佐藤早苗、河出書房新社
  3. 『別冊太陽 日本の教会をたずねて』平凡社
  4. 現地案内板、大刀洗町教育委員会

公開日:2002年12月30日、最終更新日:2011年7月16日、撮影時期:2002年9月
カメラ:Nikon COOLPIX775(Photoshopで修正)

inserted by FC2 system