photo00
稲童1号掩体壕 ( 1/2 )
Inado Bunker No.1
福岡県行橋市、1944(昭和19)年
photo01

【01】
photo02

【02】

稲童1号掩体壕の沿革

稲童1号掩体壕(いなどういちごうえんたいごう)は旧日本海軍の築城飛行場(福岡県)に建設された戦闘機格納庫群のひとつです。同飛行場は1942(昭和17)年の開設で、掩体壕は1944(昭和19)年に造られました。
 
戦後、築城飛行場は米軍の接収を経て航空自衛隊築城基地になります。掩体壕群があった場所は民有地になって半数以上が壊されてしまいますが、いくつかは残っていて、そのうち保存状態が良くてアクセスしやすい位置にあるのが1号掩体壕です。2011(平成23)年に史跡公園として整備されて、より見学しやすくなりました本稿の掲載写真は公園の工事中に撮影した)。戦時中、各地の軍の飛行場にはこのような掩体壕がたくさん建設されましたが、現存数はあまり多くありません。

photo03

【03】現地案内板から引用(行橋市教育委員会)

掩体壕の構造

掩体壕には屋根付きの有蓋(ゆうがい)掩体壕と屋根のない無蓋(むがい)掩体壕の2種類があり、稲童1号掩体壕はご覧の通り有蓋です。有蓋掩体壕は敵の攻撃から機体を守るため堅牢な鉄筋(無筋もあったかも)コンクリート造で、形状はヴォールト(かまぼこ)型かドーム型をしています。また、敵機に上空から発見されにくいよう躯体は土で覆われていました。
 
掩体壕の大きさは格納する飛行機に依ります。稲童1号掩体壕は「銀河」「一式陸上攻撃機」「九六式陸上攻撃機」といった大型機を格納していたので、掩体壕としてはかなり大型の部類になります。

photo05

【04】

戦争の証人

写真【04】は公園整備前の2004(平成16)年の様子。今以上に樹木が生い茂り、ちょっとした小山のようになっていました。この状態なら敵機から見えにくいかも知れませんが、完成して間もない戦時中は覆土から草が生えている程度だったでしょう。戦時中の築城飛行場は何度か米軍機の攻撃を受けており、周辺の民家の壁や神社の鳥居・灯籠には機銃掃射の弾痕が残っています。
 
樹木に埋もれた姿はどこか神秘的な雰囲気すら感じますが、確かにこれは六十数年前に行われた戦争の証人なのです。また、近くの築城基地から聞こえてくる戦闘機の爆音が、今も世界から戦争は無くなっていないことを教えてくれます。


photo06

【05】

4号掩体壕

当時、築城飛行場周辺には7基の有蓋掩体壕と13基前後の無蓋掩体壕、そして地下通信司令部などの施設が建設されました。現存する有蓋掩体壕は1号を含めて3基。1号以外の2基のうち、4号と思われる掩体壕が某建設会社の敷地内にあるのですが、敷地には複数の犬が放し飼いされていて、見学の許可を得ようにも会社事務所に近付くことすらできません(かなり危険、要注意)。せいぜい車内から望遠レンズで撮影するのが精一杯でした。
 
残る1基は藪の中に埋もれていて接近は困難です(1号掩体壕の現地案内板にその他の遺構の位置をプロットした地図が載っている)。


photo07

【06】

稲童地区地下通信司令部壕

photo20
竣工 1945(昭和20)年
 
掩体壕の他には地下壕、補給倉庫、弾薬隧道などの遺構が現存しています。このうち地下通信司令部が1号掩体壕の近くにあるので見てみましょう。
 
とはいえ、地下施設への立ち入りは禁止。見学できるのは地下への出入口だけなので、戦跡や近代化遺産に相応の関心がある人以外は少々面白味に欠けるかも知れません。
photo08

【07】現地案内板から引用(行橋市教育委員会)
photo21
地下通信司令部壕の平面図・断面図は【07】の通り。出入口を含めた全長36.7m、地下室の幅3m、天井高2.5mといいますから、ごく短い地下道といった程度のものに過ぎません。
 
本土の制空権を失い、米軍機の空襲や機銃掃射に晒されるという末期的な戦況において、なおあきらめずに戦った当時の奮闘ぶりをこれらの戦跡は教えてくれます。後世の私達は日本の敗戦を知っているだけに、勝利を信じてこの基地に従事していた人々を考えるといたたまれない思いがします。
名称

稲童1号掩体壕

Inado Bunker No.1

設計者

不詳

所在地

福岡県行橋市大字稲童字出屋

用途

軍事施設(航空機格納庫)

竣工

1944(昭和19)年

構造

構造:鉄筋コンクリート造

交通

車:国道10号線の音無橋交差点より県道25号線に入って数分。駐車場あり。


関連サイト

  1. 朝日新聞 マイタウン 福岡・北九州新・京築風土記(98)稲童1号掩体壕
  2. 響とバイクと山遊び廃墟&近代化遺産(稲童掩体壕)廃墟&近代化遺産(未確認掩体壕を調査セヨ!) 本文で言及した「残る1基」の掩体壕のレポート、廃墟&近代化遺産(通信地下司令部)
  3. 写真紀行 風に吹かれて廃墟の風景稲童1号掩体壕
  4. 探検北九○○探検隊スポットライト稲童掩体壕 その1
  5. 掩体壕築城基地 ウィキペディア

参考文献

  1. 『しらべる戦争遺跡の事典』十菱駿武・菊池実 編、柏書房
  2. 現地案内板、行橋市教育委員会

建築マップで紹介している他の掩体壕

  1. 前浜掩体壕群(高知県)
  2. 城井掩体壕群(大分県)

公開日:2002年11月10日、最終更新日:2011年9月4日、撮影時期:2010年1月、【04】は2002年10月
カメラ:Nikon D50、【04】はNikon COOLPIX775(Photoshopで修正)

inserted by FC2 system