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北九州市立中央図書館 ( 1/4 )
Kitakyusyu Municipal Central Library
福岡県北九州市、磯崎新、1974(昭和49)年
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【101】メインアプローチ
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【102】右手前の部分が視聴覚センター

公園の中の図書館

北九州市の中心である小倉駅周辺において、小倉城から勝山公園にかけてのエリアは緑豊かな憩いの場として市民に親しまれています。その恵まれた立地条件と環境の中に北九州市立中央図書館は建っています。同市は建築家 磯崎新氏と縁が深く、図書館をはじめ、美術館、展示場、国際会議場が磯崎氏の設計で建てられました。そのうち最も市民の利用が多いのがこの図書館でしょう。
 
正確に述べると、この建物の中にはいずれも北九州市立の図書館、文学館、視聴覚センターという3つの施設が入っており、本稿では1・2ページで図書館を、3ページで文学館を紹介し、4ページにスライドショーを掲載しています。なお、視聴覚センターの内部は見学していないので言及しません。

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【103】市役所の最上階から

ふたつのヴォールト

建物は、ヴォールト(カマボコ屋根)が入り組んだ形が大きな特徴です。市役所最上階の展望室から見下ろすと、2本のチューブから成り立っていることがよく分かります。この図書館は磯崎新氏の初期作ですが、この時期の彼はヴォールトやキューブといった形状を好んで用いており、北九州市立中央図書館はヴォールト系の代表作とされています。
 
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館内に展示されている模型

抽象性の高いデザインながら、屋根の曲線の柔らかさや銅板葺きのテクスチャーが効いているおかげで、磯崎氏の建築にしては珍しく(?)周辺環境とよく調和した建築だといえるでしょう。
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【104】勝山公園の芝生広場から

公園整備で新しい景観が出現

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昔は図書館の隣に村野藤吾氏が設計した小倉市民会館が建っていたのですが、解体されて リバーウォーク北九州の中に併設されたホールに移転しました。
 
それと同時に勝山公園の再整備が行われ、市民会館の跡地が芝生広場にするとともに、広場と図書館の間の道路にボックス型のトンネルを設置、広場側をスロープ状に盛土して2つの敷地は一体化します。この結果、広場から見ると、緑の丘の上に図書館が建っているような「絵になる」景観が生まれました。この視覚効果は実に巧みです。
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【105】

古典的風格とモダンのバランス

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芝生広場からも図書館に行けますが、できれば一旦大通りに出て従来のメインアプローチである大階段からのアクセスをお薦めします(写真101)。
 
幾何学形態の建築ながら、ヴォールトがU字型に曲がってドーム状に見える部分のスケール感はむしろ古典的な風格を帯びています。一方、階段の先にはガラス張りの壁面、スロープ、ピロティという現代建築の構成要素があり、その古典とモダンのバランスの取り方に感心させられます。
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【106】

アプローチの景観

階段を上がってから振り返ると、真正面に小倉城の天守閣とリバーウォーク北九州が見えます。図書館の竣工当時にリバーウォーク北九州は存在せず小倉城だけだったわけですが、もちろん、アプローチの軸線上に天守閣が来るように配置計画がなされています。しかも、これは単なる借景ではありません。
 
冒頭で建物には文学館が併設されていると述べましたが、竣工当時その部分は北九州市立歴史博物館で、同館が別の施設と統合して移転した跡に文学館ができました。小倉城を見れば多くの人は必然的に北九州市の歴史を思い浮かべるはず。よって、歴史博物館に相応しいアプローチを、という意図が設計者にあったと考えられます。

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【107】

もうひとつの軸線

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階段を上がったところの広場には建物を貫通する通路が面していて、通路内側の向かって右手に図書館、左手に文学館の玄関があります。また、この通路は視聴覚センター側アプローチの軸線上に位置し(写真102)、建物で分断した両側のエリアを接続する役割も担っています。
 
通路を抜けた反対側にはテラスがあって(写真108)、かつてはそこから前述の小倉市民会館が一望できました。図書館と市民会館に機能的な関係は無いにしても、両者を視覚的に繋げることで文化センターとしての一体感を作ろうとしたのです。と同時に、村野藤吾氏をリスペクトする気持ちもあったのではないでしょうか。
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【108】

素っ気ない歩道橋

勝山公園の再整備後、テラスとトンネル上部と間に歩道橋が架かり、芝生広場から直接図書館にアクセスできるようになりました。しかし、歩道橋とエレベーターシャフトのデザインが素っ気ないのは残念です。構造物を何とか端に寄せて、軸線の視線の抜けを確保した担当者の努力は分かるのですが。この部分は単なる連絡通路と軽視せず、コンペなどで優れたデザインを募るべきだったと思います。

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写真105から連続する視聴覚センター部分のガラス壁面。
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写真108のテラスを下から。左は磯崎氏のデザインボキャブラリーである「モンローカーブ」。右は文学館のバラ窓。
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小倉市民会館があった頃のテラスからの眺望。撮影 2004(平成16)年。
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