北九州市の木造市場サムネイル
北九州市の木造市場 ( 1/6 )
Wooden Markets in Kitakyusyu City


市場の宝庫、北九州市

福岡県の北九州市は、昔ながらの庶民的な市場が今なおたくさん残っている街で、その数は100カ所以上に上ります。スーパーやショッピングモールに押されて各地の商店街がシャッター通りと化している状況で、これは驚くべき数です。もちろん、同市においても経営的に好調な市場ばかりとは限りませんが、たとえ細々とであっても営業を続けている市場が少なからず存在します。
 
北九州市に市場が多い背景には、工業都市としての急成長があると考えられます。同市が製鉄業をはじめとする日本有数の工場地帯であることはご存じかと思いますが、他にも貿易で栄えた門司港や筑豊炭田の石炭積出港だった若松港といった活発な港を抱え、さらに炭鉱まで市内にあったのです。必然的に労働者とその家族で北九州市の人口は急増し、それに伴い市内各所に市場ができたのでした。なお、北九州市は1963(昭和38)年に門司・小倉・戸畑・八幡・若松の5市が合併して成立しました。各市場の建設時期は5市合併以前の可能性が高いものの、便宜上、北九州市として話を進めます。
 
全国の市場が衰退する中、北九州市に今なお多数の市場が存続している理由は、もともとの市場の数が多いことや、ショッピングモールのような大規模小売店舗が比較的少ない(正確に数えたわけではない)からではないかと思われます。

枝光本町中央商店街

枝光本町中央商店街

市場とは

本稿で述べる市場(いちば)とは「複数の売り手が集まって商品を販売する場所」のことです。市場の形態や種類には「路上で定期的に開かれる市(いち)」や「卸売市場」もありますが、ここでは「個人の買い物客が利用する常設的な建物の市場」だけを取り上げています。なお、スーパーマーケットやショッピングモールは市場に含みません。

市場の成立時期は?

北九州市の各市場がいつ頃できたのかは、私の調査不足でほとんど分かりません。おそらく戦前からいくつもの市場が存在していたはずですが、同市は戦災を受けているので、現在の市場が戦前から継続しているとしても、建物自体は戦後に建てられたものが大半だと思います。役所等で資料を調べればある程度判明すると思いますが、そこまでの調査はしていません。

市場建築の形態

市場建築には、市場全体が1棟の建物に入っているものと、複数の建物の集まりで建物間の通路上に屋根が架かっているもの、すなわちアーケードがあります。後者は一般に商店街とも呼ばれますが、市場と商店街に違いはほとんどなく、どちらを名乗るかは開業時に商店主側が自由に選んでいるようです。

木造市場の多さ

北九州市の市場で私が特に注目するのは木造建築の多さです。複数の店舗が入る中規模以上の建物やアーケードに木造を採用することは、防火規定が厳しい現行の建築基準法の下では難しい。とはいえ、不可能ではないので「道の駅」などは木造建築が多いのですが、街の中にある普通の店舗で(単独の個人商店ではなく)それなりの規模を持つ木造建築は、なかなか見ることができません。前述の戦災と法規の件から、現存する木造市場の多くは戦後の早い時期に建てられたと思われます。また、アーケードの構造については、旧建設省が1955(昭和30)年に出した通達で不燃材料とする旨の指導がなされたことも大きく影響しています。

亀川市場

亀川市場

本稿のページ構成

本稿は全6ページで下記の構成になっています。

1ページ
北九州市の木造市場の概要(このページ)

2ページ
門司区・小倉北区・戸畑区の木造市場
3ページ
八幡東区・八幡西区・若松区の木造市場
4ページ
スライドショー
 
5ページ
アーケードの歴史、参考文献、リンク集、補註
6ページ
全国の木造市場リスト
 

2・3ページで紹介している木造市場は次の通りです。

  • 門司区(2カ所)
    • 有楽街、栄町の飲食店街
  • 小倉北区(10カ所)
    • 赤坂市場、昭栄町市場、富野市場、富野新市場、旦過市場、黄金市場、昭和町の市場、木町市場、到津市場、亀川市場
  • 戸畑区(1カ所)
    • 中本町商店街
  • 八幡東区(6カ所)
    • 筑豊市場、昭和市場、枝光本町中央商店街、前田中央市場、堀川市場、丸徳市場
  • 八幡西区(5カ所)
    • 藤田市場、筒井新市場、貞元市場、相生町の飲食店街、折尾新市場
  • 若松区(3カ所)
    • 丸仁市場、宮丸市場、三越市場
中本町商店街

中本町商店街


凡例:茶色のマーカーが木造市場

建物名

北九州市の木造市場(Wooden Markets in Kitakyusyu City)

設計者

不詳

所在地

福岡県北九州市

用途

市場(店舗)

竣工

大半は戦後の早い時期(昭和20年代?)と思われる。一部、戦前の建設もあり。

構造

木造

備考

市場を見学するときは、お店の方やお客さんに迷惑をかけないよう配慮をお願いします。特に、撮影時のトラブルには十分お気を付けください。

謝辞

北九州市の市場に関しては、近代化遺産の研究者で同市の歴史にお詳しい市原猛志氏(九州大学助教)からいろいろとご教授いただきました。また、古い市場の所在地は市原氏やblue field氏・チョメ氏から情報を提供していただいた他、竹川大介氏(北九州市立大学)と北九州青果株式会社営業企画部さんがGoogleマップに公開されている地図がたいへん参考になりました。御礼申し上げます。


公開日:2010年10月10日、最終更新日:2014年7月13日 有楽街(門司区)を追記。

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