【12】
三池炭鉱の概要
三池炭鉱は福岡県大牟田市を中心とする福岡・熊本の県境にあった炭鉱です。その歴史は江戸時代まで遡りますが、1873(明治6)年に明治政府が経営する官営炭鉱となってから近代的な開発が始まります。1888(明治21)年に三井財閥に払い下げられて以降は、三井によって屈指の炭鉱に発展し、戦前・戦後の国内産業を支えてきました。各地の炭鉱が相次いで閉山する中も経営を続けてきましたが、1997(平成9)年に閉山します。
三池炭鉱の石炭層は陸上から有明海の地下にかけて広がっています。この地域には石炭の搬出や人員の出入り・換気・排水のために複数の坑口が点在し、それらは「~坑」と呼ばれていました。各坑口の建設時期や保存状況は様々で解体されたところもありますが、宮原(みやのはら)坑と万田坑(別途記事)の二ヶ所は、明治時代の竪坑櫓(たてこうやぐら)や巻揚機といった施設が良好な状態で現存しています。
【13】
竪坑櫓
端的にいえば、竪坑櫓とはエレベーターだと理解すればいいでしょう。櫓の直下には地下の坑道に通じる竪坑が延びていて、ここをケージという鋼製のカゴが昇降するします。ケージを吊すケーブルは、櫓上部の滑車を介して隣の建物内にある巻揚機に繋がっています。
宮原坑は第一・第二のふたつの坑口があって、それぞれに竪坑櫓が建設されましたが、第一坑の櫓は1954(昭和29)年に解体され、残っているのは第二坑の方です。竣工は1901(明治34)年で高さ約22m。竪坑の深さは約160mです。
かつて産炭地に林立した竪坑櫓は閉山とともに次々と取り壊され、今では数えるほどしか残っていません。明治時代の遺構である宮原坑と万田坑は、近代化遺産としての価値が認められて国の重要文化財に指定されています。(参考「炭鉱の竪坑櫓」)
【14】
巻揚機室
“巻”揚機は“捲”揚機とも表記するが本稿は“巻”の字を用いる。
竪坑櫓の周辺部と巻揚機室の内部(写真15〜16)は普段は立ち入り禁止です。内部は定期的に行われている見学会にて撮影しました(このページ末尾の備考欄を参照)。
【15】
トロッコとケージ
レールが櫓の下に延びていることから分かるように(右の写真)、トロッコはケージに直接乗り入れる仕組みになっていました。もっとも、第二坑は人員と資材の昇降が主な用途で、石炭を運び出していた(揚炭という)のは第一坑だったようです。
宮原坑からの揚炭は1931(昭和6)年に終了し、第一坑の竪坑櫓や巻揚機室は解体された一方、第二坑は坑内管理で人員が入昇降するために解体を免れました。
【16】
巻揚機室内部
巻揚機室の内部には、ケージを昇降させる巨大な巻揚機が鎮座しています。巻揚機は原動機・制動機・巻動の3つからなり、巻動(ケーブルを巻き取る部分)の直径は2.65mもあります。巻揚機の動力は当初は蒸気機関で、1933(昭和8)年に電化されました。前述の坑内管理のため、この年代物の設備が2000(平成12)年まで実際に動いていたとは驚きです。
坑内との連絡に使った電話機や巻揚機運転の注意書きといった小物がそのまま残るなど、三池炭鉱の閉山以来、室内はほとんど時が止まっています。
【17】
ライトアップ
建物名 | 三池炭鉱宮原坑 Miyanohara Pit of Miike Coal Mine |
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設計者 | 不詳 |
所在地 | 福岡県大牟田市宮原1 |
用途 | 炭鉱 |
竣工 | 第二竪坑櫓・巻揚機室=1901(明治34年) |
構造・規模 | 構造:第二竪坑櫓=鉄骨造、巻揚機室=レンガ造 第二竪坑櫓の高さ:約22m |
交通 | 車:大牟田市中心部から県道3号線を東に向かい、今野病院付近で右折(標識あり)。道なりに進むと宮原坑に到着する。駐車場あり。 バス:末広町下車 徒歩15分程度。 |
備考 | 国指定重要文化財 世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産。「建築マップ」では構成資産をいくつか紹介している。詳しくはこちら。 2015(平成27)年7月1日以降、内部も毎日公開となった。時間は10〜17時。 |
リンク
- 大牟田・荒尾 炭鉱のまちファンクラブ
- 大牟田の近代化産業遺産
- 大牟田市 > 企画総務部 世界遺産登録・文化財室
- 大牟田の近代化遺産 > 三池炭鉱宮原坑
- 異風者からの通信 > 坑口探訪マップ > 宮原坑第二竪坑櫓
- 九州ヘリテージ > No.08 三井三池旧宮原坑、三井三池炭鉱宮原坑一般公開
- 廃墟徒然草 -Sweet Melancholly- > 三池炭鉱で検索
- 九州・山口の近代化産業遺産群 トップページ音声あり > 地図 > 三井石炭鉱業株式会社 三池炭鉱宮原坑施設
- 三井三池炭鉱 ウィキペディア
- YouTube ふくおかインターネットテレビ > 大牟田市を巡る 明治日本の産業革命遺産
参考文献
- 『筑後の近代化遺産』九州産業考古学会筑後調査班、弦書房
- 『九州遺産 近現代遺産編101』砂田光紀、弦書房
- 『地底の声 三池炭鉱写真誌』高木尚雄、弦書房
- 『三池炭鉱史』上妻幸英、教育社
公開日:2010年9月26日、最終更新日:2015年8月9日、撮影時期:2005年6月、2006年7月、2007年5月、2009年12月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1、Nikon D50(Photoshopで修正)