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公団市街地住宅のリノベーション
1955(昭和30)年に組織が発足して以来、日本住宅公団(現UR)は各地に団地を建設して我が国の生活水準の向上に大きく寄与しました。残念なことに、近年は建物の老朽化や国のUR縮小の方針から、初期に建設された団地を中心に解体・建替が相次いでいますが、その一方、数は多くないものの、古い建物の内外装や平面、設備等を改修して使い続けるリノベーションの事例もあります。ここではそのひとつとして福岡市のTHE APARTMENTを紹介します。
もともとこの集合住宅は1965(昭和40)年に大濠公団住宅として建設された市街地住宅です。市街地住宅とは、都市部の民間の土地に公団が建てた集合住宅の名称で、低層部には店舗や事務所が、上層部に住戸が入るという構成は現在では珍しくありませんが、民間マンションが普及する以前は最先端の都市居住スタイルでした。大濠公団住宅は、福岡市の代表的な公園である大濠公園と幹線道路の間に建っており、交通の便と憩いの場に恵まれた理想的な立地条件にあります。
URの事業縮小方針に伴い、建設から数十年を経た市街地住宅がURから民間に譲渡される中、その大半が建て替えか現状のまま使用のいずれかであるのに対して、大濠公団住宅では本格的なリノベーションが行われました。
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リノベーションの概要
リノベーションの概要は、外壁色の変更による大胆なイメージチェンジ、事務所用途だった1・2階に飲食店やフィットネスクラブが入居、大濠公園側の住戸にベランダを設置、住戸平面の変更、といったところです。カラーリングはハワイをイメージしているとのこと。写真21・22は大通り側の1・2階立面で、寂れた事務所部分が今風のオシャレな雰囲気に様変わりしています。
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個性的な立面
リノベーション前の廊下
福岡市内の市街地住宅の中でも大濠公団住宅はかなり個性的で、大通りに面する廊下側立面(北立面)は縦長窓を市松状に配置 註1 、大濠公園に面する住戸側立面(南立面)は田の字型に割り付けた窓をこちらも市松状に配置するという、実にユニークなデザインでした。リノベーション後の廊下側立面は、壁や建具は変更せず色の塗り替えによるイメージチェンジにとどめています。
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実際の要望を優先した南立面
一方、大濠公園に面する立面は建具を全面的に変更した上でバルコニーを新たに設けています。公団がバルコニーを設置しなかったのは公園に洗濯物を見せたくなかったためと思われますが、物干しの実用性や公園の緑豊かな眺望を味わうことを考えると、やはりバルコニーが欲しいところです。 註2
建物名 | THE APARTMENT(旧 大濠公団住宅) |
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設計者 | THE APARTMENT:BAS建築設計事務所 大濠公団住宅:日本住宅公団か? |
所在地 | 福岡県福岡市中央区大濠公園2-35 |
用途 | 集合住宅 |
竣工 | THE APARTMENT:2010(平成22)年 大濠公団住宅:1965(昭和40)年 |
構造・規模 | 構造:鉄筋コンクリート造、階数:地下1階、地上10階 |
交通 | 福岡市営地下鉄 大濠公園駅下車 徒歩3分 |
備考 | 見学の際は住民のプライバシーに配慮をお願いします。部外者は内部に入れません。 |
左から大村美容専門学校、THE APARTMENT
補注
- 公団住宅で縦長窓を活かした立面としては、ストライプ状に配置した西長堀アパート(大阪市、1958年・昭和33年)がある。大濠は西長堀のデザインの発展形と思われる。
- バルコニーは増築ではなく既存の内部空間の一部を外部化したもの。
関連サイト
参考文献
- THE APARTMENTのパンフレット
建築マップで紹介している集合住宅のリノベーション
公開日:2010年8月28日、最終更新日:2010年8月28日、撮影時期:2007年10月(大濠公団住宅)、2010年8月(THE APARTMENT)
カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)