北九州市立八幡図書館の機能は別の場所に移転し、本稿で紹介している建物は2016(平成28)年3月に閉鎖、その後、解体されました。
なぜ北九州市八幡東区に村野建築が多いのか?
Googleマップのキャプチャに付記
村野氏の建築が集中しているのは偶然ではなく、実は彼は青少年時代を旧八幡市で過ごしていました。旧八幡市が戦災復興事業で駅前を区画整理し、沿道に公共建築を整備する際、地縁と実績を併せ持つ建築家として、主要な文化施設の設計を市が彼に依頼したのです。
左から八幡市民会館、福岡ひびき信用金庫本店、平和ビル第1棟
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外観の特徴
『八幡の建設』から引用
ただ、八幡図書館の立面の成立過程は少々込み入っていて、1955(昭和30)年の開館当初は現在の壁面は仕上がっておらず、右の写真のように柱・梁の内側に壁面が引っ込み、模様はありませんでした。その後、1956(昭和31)年の2期工事で3階の内装工事が、1957(昭和32)年の3期工事で積層式書架の設置と外壁工事が行われて現在の姿が完成。工期が3期に分かれたのは予算の都合だったようです。1957年完成の立面の素材について、北九州市に残る図面には三角形の部分は「鉱滓煉瓦」、茶色の部分は「特殊煉瓦」と記され、後者はおそらく特注色の耐火レンガと思われます。
鉱滓レンガ建築(北九州市戸畑区)
【05】ピロティ
【06】ブラウジング ルーム
【07】玄関
1階
建物は地上3階建て。地上1階はピロティが大半を占め、その他に玄関やブラウジング ルーム(新聞閲覧室)、移動図書館車両(ブックモービル)用の半地下車庫などがあります。ピロティは床面から梁下まで2,130mmしかなく、現在の基準ではかなり低い空間です。自動車普及率が低い時代の建築でもあり、駐車場ではなく純粋に来館者の滞留スペースとして設計されたと思われます。
【08】1階廊下
【09】1〜2階の階段
【10】2階廊下と階段の手すり
2〜3階
2~3階は閲覧室や書庫、事務室など。平面や内装はごく普通の公共施設と変わらず、率直にいって村野藤吾氏の個性を見出すのは難しい。階段についても、確かに納まりは決して悪くありませんが、“階段の名手”といわれる村野氏にしては、かなりシンプルなデザインにとどまっています。とはいえ、握りやすさを考えた手すり形状は彼らしいといえます。
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インスタレーション
2014(平成26)年の11〜12月、北九州市内の歴史的建築物を舞台にした「BUILDING DIGNITY」というアートイベントの一環として、八幡図書館を鮮やかな光で彩るインスタレーションが行われました リ1・7 。主催者によると「建築の尊厳を(再)構築」する試みとのこと。
【14】閉鎖直後
【15】解体中
【16】解体中
八幡図書館は移転して解体、市民会館は機能廃止のうえ活用策を検討
長年使われてきた八幡図書館と八幡市民会館ですが、建物の老朽化および隣地に移転する市立八幡病院の駐車場確保を理由に、北九州市は解体を選択肢に含めて検討。そして2014(平成26)年3月31日、市は八幡図書館を2年後を目途に解体、八幡市民会館は同じく2年後を目途に市民会館の機能を廃止したうえで活用策を検討すると発表しました。これに対して、両施設を長年利用して愛着を持つ多くの市民から解体に反対する声が上がり、実現性を考えた図書館のリノベーションの提案などもなされましたが、2016(平成28)年4月、図書館機能は近隣の別建物に移転して村野氏が設計した方は閉鎖され、翌5月から解体工事が始まりました。7月上旬の時点で地上部分の躯体はほぼ解体済み、工事は8/19に終了の予定です。註3
【17】移転後の新しい八幡図書館
【18】模型
【19】外壁サンプル
新八幡図書館にある旧館の展示物
移転した新しい八幡図書館は旧図書館のすぐ東側にあります。もともとは九州国際大学文化交流センターとして1997(平成9)年に建てられたもので、設計したのは日建設計 リ8 。この玄関ホールに旧図書館に関する展示コーナーがあって、模型や外壁のサンプルが置かれています(本稿の掲載写真は図書館の許可を得て撮影)。模型は西日本工業大学デザイン学部建築学科 臼井研究室のみなさんが製作して2015(平成27)年に八幡図書館へ寄贈したものです リ9 。外壁レンガの幾何学模様や割り付けまで正確に再現した精巧な模型で、スケールは1/100。外壁のサンプルは解体前に建物本体から切り取ったもので、矩形と円筒形(コア抜き)のふたつがあり、外観の特徴だった2種類のレンガ(耐火レンガと鉱滓レンガ)をじっくり観察することができます。
この他、館内の郷土資料室には村野氏関係の書籍や八幡図書館の歴史に関する資料が揃っています。また、旧図書館の解体前にドローン等で撮影した映像のDVDが館内で視聴できるそうです(筆者は未見)。 註4
名称 | 北九州市立八幡図書館 Kitakyusyu Municipal Yahata Library |
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設計者 | 村野藤吾 / 村野・森建築事務所 MURANO Togo / Murano and Mori, Associated Architects |
所在地 | 福岡県北九州市八幡東区尾倉2-6-2 |
用途 | 図書館 |
竣工 | 1955(昭和30)年 |
構造・規模 | 構造:鉄筋コンクリート造 建築面積:588m2、延床面積:1,536m2 階数:地上3階 |
交通 | 鉄道:鹿児島本線 八幡駅下車 徒歩約10分 |
備考 | 図書館の移転に伴い2016(平成28)年3月に閉鎖。8月まで解体工事中。 |
上から福岡ひびき信用金庫本店、八幡図書館、八幡市民会館
補註
- 村野藤吾(むらのとうご)、1891〜1984(明治24〜昭和59)年。現在の佐賀県唐津市に生まれ、幼少期は唐津で、青少年時代は福岡県八幡市(現在の北九州市八幡東区)で暮らす。小倉工業高校を卒業して八幡製鉄所に勤め、兵役を経て早稲田大学の電気学科に入学し、途中で建築学科に転科する。卒業後、大阪市の渡辺節建築事務所に就職して研鑽を積み、1929(昭和4)年に大阪で独立。以後、晩年まで活躍し、関西を中心に各地で多数の建築を手掛けた。
- 当初、模様のデザインが村野氏かどうか疑問視する文章を掲載したが、その部分は撤回する。
- 毎日新聞(地方版)2016/5/11付記事による。また、撤去したレンガを用いて記念碑を製作する予定とのこと。
- 読売新聞(地方版)2016/5/31付記事による。
参考文献
- 『村野藤吾建築案内』村野藤吾研究会編、TOTO出版
- 『北九州地域における戦前の建築と戦後復興の建築活動に関する研究』尾道健二(九州共立大学工学部建築学科 教授)・内田千景(同 大学院生)・開田一博(北九州産業技術保存継承センター研究員)、北九州産業技術保存継承センター・九州共立大学、非売品
- 『八幡の建設』八幡市
リンク
- 北九州市立八幡図書館 公式サイト > BUILDING DIGNITY KITAKYUSHU INSTALLATION PROJECT 03(PDF)
- 北九州市 > 八幡図書館(外3分館)・若松図書館(外1分館)の指定管理者を募集します。 > 八幡図書館等の平面図(PDF)
- GMT foto @KitaQ > 村野藤吾建築保存
- FAF 福岡建築ファウンデーション > 村野藤吾の八幡にある建築の行く末は
- 日本建築学会 > 最新の要望書・提言・報告 > 要望書 > 2014年5月29日 北九州市立八幡図書館」と「北九州市立八幡市民会館」の保存活用に関する要望書(PDF)
- 八幡市民会館、村野藤吾 ウィキペディア
- KIP 北九州インスタレーションプロジェクト Facebook
- 北九州市建築都市局計画部都市計画課 景観担当 > 北九州市都市景観賞 > 建築文化賞 > 第9回 > 九州国際大学文化交流センター
- 西日本工業大学 > 北九州市立八幡図書館に模型を寄贈
公開日:2014年2月8日、最終更新日:2016年7月7日 解体工事の写真を追加。
撮影時期:2007年1月、2014年1月・11月、2016年4月・5月
カメラ:Nikon D50・D3200、Canon PowerShot S90、FUJIFILM XF1(Photoshopで修正)