【02】
プレハブ建築の可能性を追求した巨大団地
芦屋浜シーサイドタウンは芦屋市の沿岸部に広がる大規模な高層集合住宅です。この他に例を見ない独創的なデザインの団地は、工業化工法を用いた高層集合住宅のコンペによって選ばれました。
工業化工法(プレハブ工法)をおおまかに説明すると、部材をある程度まで工場で製作しておいて現場では簡単な取り付け作業で済ませることで、現場作業の比重が高い建築工事を効率化してコストダウンや工期の短縮を図るものです。
現在ではプレハブ工法は普及していますが、1970年代はまだ試行錯誤の段階で各社が施工方法の研究・開発を進めていました。この時期に提案されたプレハブ建築は「工業製品」であることを強調する傾向があり、その代表が独立住宅ではセキスイハイムM1、集合住宅では芦屋浜シーサイドタウンです。どちらも今なおその先進性やインパクトは薄れていません。
【03】
高層棟を支える大架構
西芦屋浜シーサイドタウンの住棟立面を見ると、露出した鉄骨トラスが大きなフレームを構成していることが分かります。梁の役割を担うトラスを5層おきに設けて大規模なラーメン構造(柱・梁の骨組み)とすることで、部材を減らしながら高層建築を実現させているわけです。このトラス梁の部分は住民の共用スペース(実質は駐輪場と化している)であるとともに災害時の一時避難場所にもなっています。
【04】
SF的都市景観
現在のハウスメーカー住宅やタワーマンションもプレハブ工法を導入しているものの、外観は意匠性に富んだものになりました。芦屋浜シーサイドタウンのような無装飾なデザインはおそらくもう出現しないでしょう。
技術面が優先するあまり住まいの潤いに欠ける印象は否めない一方で、別の星の都市に迷い込んだようなSF的景観には理屈を超えた魅力を感じずにはいられません。いずれにせよ、神戸観光の際はぜひここにも足を伸ばしてその迫力を味わってほしいと思います。
建物名 | 芦屋浜シーサイドタウン(Ashiyahama Seaside Town) 建築専門書では芦屋浜高層住宅との表記が多い。 |
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設計者 | ASTM企業連合(ASTM Cartel) ASTMはアステムと読む。A=芦屋浜、S=新日本製鐵、T=竹中工務店+高砂熱学工業、M=松下電工+松下興産を意味する。 |
所在地 | 兵庫県芦屋市若葉町・高浜町 |
用途 | 集合住宅 |
竣工 | 1979(昭和54)年 |
構造・規模 | 構造:鉄骨造、階数:地上14〜29階 |
交通 | 鉄道:阪神本線 打出駅下車 徒歩15分程度 |
備考 | 1980年度日本建築学会賞、1981年度BCS賞(建築業協会賞) 見学・撮影の際は住民のプライバシーに十分配慮してください。 |
参考文献
- 『建築MAP 大阪/神戸』238頁、TOTO出版
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公開日:2010年7月10日、最終更新日:2010年7月10日、撮影時期:2006年1月
カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)