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はりまや橋商店街 ( 1/2 )
Harimayabashi Market
高知市、平山昌信 + 西森啓史 、1998 (平成10)年
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香椎中央商店街
香椎中央商店街の日覆い(現存せず、福岡市東区)

現代では珍しい木造アーケード

はりまや橋商店街は高知市の中心部にある商店街で、昔は中種商店街といいましたが、1998(平成10)年、木造アーケードに架け替えた際に今の名前に変わりました。国内のアーケードは鉄骨造が圧倒的に多く、木造も存在するとはいえそのほとんどは戦前か戦後初期のものであり、はりまや橋商店街のように平成時代に建設された木造アーケードはたいへん珍しい事例です 註1 

アーケードの歴史

まず日本のアーケードの歴史を簡単に振り返っておくと、上部空間を何かで覆う方法としては、店先に布地を張る「日覆い(ひおおい)」が江戸時代から西日本を中心に普及していました。これは、はりまや橋商店街に隣接する魚の棚商店街などで現在も見ることができます(筆者は見落とした)。ただ、日覆いは日差しを遮るための仮設構造物であり、風雨が強いときは張ることができません。一方、より堅牢な常設構造物は、1921(大正10)年に大分県別府市に木造で造られた竹瓦小路アーケード(現存)が最初とされています。以後、戦前から戦後初期にかけて各地に木造アーケードが建設され、いくつかの都市には現存しています。
 
しかし、1955(昭和30)年、旧建設省などが「アーケードの材料には不燃材料を用いること」という通達を出します。その目的は延焼防止、つまり、ある1軒から発生した火災がアーケードを伝って商店街全体に広がる事態を防ぐことにありました。1951(昭和26)年に出現した鉄骨造アーケードはこの通達で主流となり、木造アーケードはほぼ途絶えることになります。もっとも、鉄骨造の一般建築物が普及するにつれて、そちらの方が施工性やコストが有利になったので、仮に通達が出なかったとしてもアーケードは木造から鉄骨造に移行したことでしょう。

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建築的特徴

このような経緯の後、あえて木造で建設されたはりまや橋商店街のアーケードは、実に意欲的な試みであり、1990年前後から始まった木造大空間の系譜 註2 においてもユニークな建築物です。アーケードの規模は全長135m、幅8m、高さ11.55m。小屋組は単純なようで重なると複雑な構成美が生まれ、これが延々と続く空間は迫力があります。木材は高知県産のスギを使用。ただし、柱は鉄骨を厚さ50mmのスギ材で被覆したものなので、正確には木造と鉄骨造の混構造というべきでしょう。
 
なお、ライター等を使ったイタズラによる着火を防ぐため、柱の下から2mまではプレートが巻かれており、やむを得ないとはいえスギ材に直接手を触れられないのは残念です(写真02)。このことが示すように、木造アーケードの実現における大きな課題は防火対策で、はりまや橋商店街にはスプリンクラーやドレンチャー 註3 などが設置されています(写真04にその配管が見える)。これらの設備は水源を必要としますが、近隣のはりまや橋公園には水路を循環させるための貯水槽が既にあり、これを水源に利用してコストダウンができたことが、実現に至る大きなポイントとなりました。

名称

はりまや橋商店街

Harimayabashi Market

設計

平山昌信 / 艸建築工房

HIRAYAMA Masanobu / Sou Architectural Factory

西森啓史 / 西森啓史建築研究所

NISHIMORI Keishi / Keishi Nishimori Architect & Associates

所在地

高知県高知市はりまや町1

用途

商店街

竣工

1998(平成10)年

構造・規模

構造:木造 + 鉄骨造

規模:全長135m、幅8m、高さ11.55m

アーケードの水平投影面積:1,191.40m2

交通

路面電車:土佐電気鉄道後免線 デンテツターミナルビル電停 下車

補註

  1. 「はりまや橋商店街は日本初の木造アーケード」という記述がネット上に散見されるが、本文で述べた通り戦前から戦後初期にかけて木造アーケードは既に建設されている(詳細は「北九州市の木造市場」を参照)。ただ、現行法規に基づいて造られたものとしては、はりまや橋商店街が「最初」といえるだろう。
  2. 例えば小国ドーム(葉祥栄、熊本県小国町、1988・昭和63年)、清和文楽館(石井和紘、熊本県清和村、1992・平成4年)、出雲ドーム(KAJIMA DESIGN、島根県出雲市、1992・平成4年)など。
  3. 火災が発生した際、他の建物への延焼を防ぐために水幕を発生させる設備。はりまや橋商店街の場合、アーケードと建物との間に水幕を張ることで、アーケードを伝って火が広がっても建物への延焼を防ぐ仕組みだ。これに加え、スプリンクラーが小屋組に向けて水を散布するようになっている。

リンク

  1. 日本木材総合情報センター国産材を使用した大型優良木造施設はりまや橋商店街 木造アーケード
  2. けんちゃんのどこでもコミュニティはりまや橋商店街と木造アーケードについて
  3. 艸建築工房WORKS環境デザインはりまや橋商店街木造アーケード

参考文献

  1. 『新建築』1998年6月号、新建築社

公開日:2014年3月2日、最終更新日:2014年3月2日、撮影時期:2004年4月、2006年10月
カメラ:Nikon COOLPIX775、Nikon D50(Photoshopで修正)

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