【02】
突き出た廊下が特徴的な外観
外観でまず目を引くのが赤い鉄骨造が突き出た部分。新渡鹿団地はスキップフロア住棟で 註1 、その廊下が住棟本体から分離しているのです。
【03】一般的なスキップフロア住棟
スキップフロアとは
建築設計におけるスキップフロアにはふたつの意味がありますが、集合住宅の分野では写真03のような住棟をいいます。
高層住棟で一般的な片廊下型では、通行人の視線が気になって廊下に面する部屋の窓が開けにくい、たいてい廊下は北側にあってその廊下が大きな庇になって部屋が暗い、といった欠点があります。
そこで、片廊下を数階おきに飛ばして廊下に直接面しない住戸を増やし、居住性の向上を図ったのがスキップフロア型です。ただし、欠点として非廊下階住戸への経路が複雑になる、廊下階と非廊下階で不平等が生じる、などが挙げられます。
【04】
廊下と住棟の分離
スキップフロアで廊下の分離というアイディアを考えた設計者は他にもいるはずです 註2 。しかし、構造が大がかりになってコストがかかるので、実際の採用は難しいでしょう。意欲的な建築デザインを奨励するくまもとアートポリスだからこそ、こうして実現した次第です。もちろん、コストの制約がないわけではありませんが。
【05】
空中廊下の特徴
廊下が眺望を妨げているのは欠点と言えばそうですが、立体的な空間を構成している面白さも感じます。
【06】8階廊下
閉鎖的な廊下
6階廊下
例えば 帯山A団地では、覗き見のデメリットは承知の上で吹きさらしのブリッジ状廊下を設置し、廊下を歩く人を見せることで団地の活発さを表現しています。新渡鹿団地の空中廊下でそれができたら、面白いデザインになったのではないでしょうか。例えば半透明の素材を使うとか。
【07】
南立面の特徴
11階建は高層集合住宅としては特に高いわけではありませんが、トラスによる門型フレームは地域のランドマークにふさわしい存在感を主張しています。
【08】10階廊下
住棟がひとつの都市
1階はピロティ、4階は片廊下、6・8階は空中廊下、そして10階は見晴らしの良い片廊下、このように低・中・高層階によって廊下のデザインが大きく異なるのは、廊下を立体的な街路空間に見立てて住棟の中に都市を構築しようとする意図を感じました。
片持ちで突き出た最上階
ピロティ
10階からの眺め
集会所
建物名 | 県営新渡鹿団地 Shintoroku Prefectural Housing Project |
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設計者 | 小宮山昭 + ユニテ設計・計画 KOMIYAMA Akira + Unit'es Architects & Planners |
所在地 | 熊本市渡鹿3-854-1 |
用途 | 集合住宅 |
竣工 | 1993(平成5)年 |
構造・規模 | 構造:鉄骨鉄筋コンクリート造 建築面積:1,285m2、延床面積:7,302m2、階数:地上11階 |
交通 | バス:市営バス・産交バス 渡鹿七丁目バス停下車 鉄道:豊肥本線 東海学園前駅下車 徒歩約10分 |
備考 | くまもとアートポリス参加事業 見学・撮影の際は住民のプライバシーに十分な配慮をお願いします。 |
マーカー左から新渡鹿団地、帯山A団地、保田窪第一団地
補註
- 通常の片廊下部分もある(【02】右側)。正確にはスキップフロアと片廊下の混合タイプ。
- 筆者は福岡県芦屋町の集合住宅で、同じようなブリッジ状スキップフロアを確認している。
参考文献
- 『JA』10号 特集:くまもとアートポリス 建築の公共性、新建築社
リンク
- 熊本県 > くまもとアートポリス > くまもとアートポリス参加プロジェクト一覧 > 27 県営新渡鹿団地
公開日:2004年11月6日、最終更新日:2011年7月9日、撮影時期:2002年11月(一部1990年代前半)
カメラ:Nikon COOLPIX775、フィルムカメラ(Photoshopで修正)