【02】
長崎で殉教した26人の信者
豊臣秀吉はキリスト教に対して、当初はバテレン追放令を出しながらもあまり厳しい取り締まりは行っていませんでしたが、やがて弾圧の方針に転換します。この弾圧を象徴する出来事が、1597(慶長元)年に長崎で26人の信者が処刑された事件です。彼らのうち24人は京都で市中引き回しの後、徒歩で長崎まで連行され(その道中でさらに2人が加えられる)、西坂という場所で槍に突かれて処刑されました。彼らの中には12歳の少年もいましたが同じように処刑されます。
この殉教は宣教師によってヨーロッパに報告され、日本では幕末にあたる1862年にローマ教皇が聖人に列したことから、彼らは「日本二十六聖人」と呼ばれています。
二十六聖人に捧げられたふたつの教会
幕末に長崎が開港して外国人居留地ができると、そこに滞在する外国人のため1864年に大浦地区に教会が建てられました。一般には大浦天主堂の名前で知られていますが、正式名称を日本二十六聖殉教者天主堂といって二十六聖人に捧げられた教会です。
一方、戦後になって殉教地である西坂にも二十六聖人に捧げる教会が建設されました。それが本稿で紹介する日本二十六聖人記念聖堂 聖フィリッポ教会です。大浦天主堂の正式名称が「二十六聖殉教者」を冠するため、記念聖堂では「聖フィリッポ」(二十六聖人のひとり、フェリペ デ ヘススのこと)の名前が選ばれました。
【03】
聖堂・記念館・記念碑で一体的な構成
写真01は記念碑前の広場から聖堂・記念館・記念碑を見たところ。樹木が生長して聖堂の立面が半ば隠れているものの、全体構成は分かるかと思います。
ガウディ風の双塔
聖堂でまず目に止まるのが独特な形の双塔です。長崎市は傾斜地の街で、殉教地の西坂はちょっとした丘になっています。現在はビルが建ち並んで見えなくなってしまいましたが、竣工当時は長崎駅から丘の上にそびえる双塔がよく目立っていたはずです。
そもそも設計者の今井兼次はアントニオ ガウディを日本にいち早く紹介した功績で知られており、この双塔がガウディの影響を受けていることは明白でしょう。
【04】
コルビュジエの影響
しかし、建築史家の藤森照信氏も指摘されているように、双塔以外の部分にはむしろル コルビュジエの影響が感じられます。具体的にはコンクリート打放し仕上げ、立面の縦ルーバー、ピロティ、そして壁面に自由に穿たれた開口部は形状こそ違えロンシャンの教会を思わせます。
作家性と機能性
このように造形的にはガウディやコルビュジエを援用しながら宗教的な理念を表現していますが、そういった造形要素を除くと聖堂は意外とまっとうな現代建築だったりします。例えば、ピロティは狭い敷地でミサを終えた後の信者のたまり場を用意するためでしょうし、双塔は聖堂を支える柱としての機能があります。つまり、強い作家性の背後には機能主義があり、両者のバランスが上手くとれている建築なのです。
【05】
内部空間
天井も竣工時は打放しだったようですが、現在は木造風の垂木が密な間隔で付いていて、どことなく和風建築を思わせます。そういえば立面の縦ルーバーも、コルビュジエ流のブリーズ ソレイユというよりは日本家屋の格子のようです。
名称 | 日本二十六聖人記念聖堂 聖フィリッポ教会 Twenty Six Martyrs Memorial St. Philip Church |
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設計者 | 今井兼次 IMAI Kenji |
所在地 | 長崎市西坂町7-8 |
用途 | 教会(教派はカトリック) |
竣工 | 1962(昭和37)年 |
構造・規模 | 構造:鉄筋コンクリート造 建築面積:359m2、延床面積:912m2 |
交通 | 鉄道:JR長崎駅下車、徒歩約10分。 |
備考 | DOCOMOMO JAPAN No.073 1962年度日本建築学会賞 ここは信仰の場です。見学の際は教会や信者の方々の迷惑とならないよう十分な配慮をお願いします。 |
リンク
- 建築環境デザインコンペティション > LIVE ENERGY > 現代建築考 > 日本二十六聖人記念館
- 日本二十六聖人記念館 > 記念聖堂 公式サイト
- あ!っとながさき > 聖フィリッポ西坂教会
- 長崎の教会 > 長崎南地区 日本二十六聖人西坂の殉教地
- 日本二十六聖人記念館、今井兼次 ウィキペディア
- 早稲田建築アーカイブス > 016 今井兼次
- 旅する長崎学 > 教会巡礼のマナー
参考文献
- 『昭和モダン建築巡礼 西日本編』磯達雄・宮沢洋、日経BP社
- 『再読/日本のモダンアーキテクチャー』彰国社
- 『新建築 1991年6月臨時増刊 創刊65周年記念号 建築20世紀PART2』100頁、新建築社
- 『建築モダニズム─近代生活の夢とかたち』エクスナレッジ
- 『建築グルメマップ2 九州・沖縄を歩こう!』115頁、エクスナレッジ
- 『建築MAP九州/沖縄』132頁、TOTO出版
公開日:2004年7月18日、最終更新日:2012年11月23日 関連サイトに「早稲田建築アーカイブス」を追加、撮影時期:2005年8月
カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)