【02】
市街地に残る古い木造市場
長崎駅から徒歩数分のところに、大黒(だいこく)市場という古い市場があります。昭和30年前後に創業した市場で、長屋形式の細長い木造建物の中に、鮮魚・精肉・青果店などのお店が40軒ほど入っています。建物は老朽化していますが売っている食材は新鮮なものが揃っており、一般のお客さんだけでなく料理人といったプロも買い付けに来る程です。
増改築を繰り返した建物
食材の新鮮さもさることながら、建築的に見た大黒市場の魅力はその外観にあります。入居者が長年に渡り自由に増改築を繰り返した結果、オフィスビルやマンションが建ち並ぶ市街地において、そこだけが別世界のような雰囲気を放っているのです。
【03】
増改築の変遷
ふたつの市場で増改築に大きな差が見られるのは、市場ごとに何らかのローカルルールがあったのかも知れませんが、詳しい理由は把握していません。
【04】
法を超越した建築
おそらく、増改築に際して正規の確認申請手続きは行っていないでしょう。コンプライアンス(法令遵守)が重視される現在と昔では事情が異なりますし、今の基準で批判することにあまり意味はありません。むしろ、現在こそこのような法を超越した解放区的な建築は貴重といえます。
【05】
市場は暗渠の上に
写真05は暗渠の川下にあたる大黒市場側の端部ですが、よく見ると橋の欄干らしきものが確認できます。実は写真05の建物は上述の木造長屋とは別の建物であり、おそらく当初は道路だった部分に建設したと思われます。
【06】
暗渠の撤去に伴い解体へ
閉鎖後は、近隣に移転して商売を続ける店舗がある一方、閉店を決めたところもあります。いずれにせよ市場の一体性は失われ、戦後のスラムクリアランスで誕生した市場は再度のクリアランスで消滅します。
クリアランス:ある区画の既存建物や構造物をまとめて解体し、更地化すること。
【07】
内部空間
内部について説明すると、1階平面は中廊下型で、中心を貫く通路の両側に店舗が並んでいます。大半の店が夕方までには閉まってしまうので、営業中の様子が見たいなら午前から正午頃の訪問をおすすめします。私が訪れたときは、シャッターが下りている部分が目に付いたものの、営業中のお店には活気を感じました。狭い通路に商品が溢れる雑然とした空間は、現代のレトロ風インテリアで再現できるものではありません。
誰のコントロールも受けず、増築というより“増殖”というべき様相を呈している大黒・恵比須の両市場。無くすには惜しい空間ですが、解体が不可避である以上、この類い希な建築を多くの人の記憶にとどめて欲しいと思います。
建物名 | 大黒市場と恵比須市場 Daikoku Market and Ebisu Market |
---|---|
設計者 | 不詳 |
所在地 | 長崎市恵美須町 |
用途 | 市場 |
竣工 | 1950(昭和30)年前後に竣工。その後、増改築を繰り返す。 |
構造・階数 | 構造:木造、階数:地上2〜3階 |
交通 | 鉄道:長崎駅下車 徒歩10分程度 |
備考 | 2012年3月に閉鎖、同年度中に解体。現存せず。 |
リンク
- ナガジン! > 発見!長崎の歩き方 バックナンバー > 長崎食の台所 イキ!イキ!市場
- Open21 > 長崎散策 > 大黒町周辺散策 後編
- 長崎経済新聞 > 消えゆく戦後の市場を高校生が撮影-大黒市場でシャッター写真展
- 廃墟徒然草 -Sweet Melancholly- > 長崎さるく #18 大黒市場
- アトリエ隼 仕事日記 > 大黒・恵美須市場は今も生き続ける「ミニ軍艦島」!
- ちび太郎のさるく日記 > 大黒・恵美須市場(長崎市恵美須町)
- aoilab 明治大学 建築史・建築論研究室(青井研究室)blog > 大黒市場+恵比寿市場/松原マーケット/土橋市場/旦過市場
- FORBIDDEN KYUSHU > カテゴリー別アーカイブ: 恵美須・大黒市場
建築マップで公開している木造市場
公開日:2010年2月13日、最終更新日:2013年2月9日 解体の情報を追記、撮影時期:2009年12月、2011年7月
カメラ:Nikon D50・Canon PowerShot S90(Photoshopで修正)