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ドンドン坂 ( 1/2 )
Dondon - zaka
長崎市、明治時代
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【01】
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【02】オランダ坂(東山手洋風住宅群付近)

坂の街、長崎

初めて長崎市を訪れた人がまず目を見張るのはその都市景観でしょう。急傾斜地が家屋でびっしりと埋め尽くされている光景は驚くべきものです。必然的に、長崎は坂が多い街ということになります。街中にある坂道には名前が付けられているものが少なくありません。最も有名なのは、ガイドブックで必ず紹介される観光名所のオランダ坂です。
 
周知の通り、長崎は鎖国時代も外国(オランダ)と交易をしていた唯一の港町ですが、当時の外国人は出島から出ることは許されませんでした。ペリー来航後に横浜などと共に長崎も開港すると、幕末から明治にかけて市内の東山手と南山手地区に外国人居留地が形成されます。オランダ坂はこの時期に整備された石畳の坂道で、坂の途中にある東山手洋風住宅群は居留地時代の建物です。ちなみに名前の由来は、長年オランダと交易していた影響で、開港後も西洋全般を「オランダ」と呼ぶ風習がしばらく続いたことによります。

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【03】

もうひとつの居留地時代の坂道

東山手のオランダ坂に対して、南山手に残る居留地時代の坂道が本稿で紹介するドンドン坂です。この坂も観光ガイドでよく紹介されますが、南山手は観光地化されていない住宅地なので、実際に訪れる人はさほど多くありません。とはいえ、オランダ坂に匹敵する歴史的な遺構で、今なお居留地時代の雰囲気がそれなりに残っており、ここを見ずに済ますのは惜しいと思います。
 
ドンドン坂は全長116.9m、側溝を含む幅員2.5m、歩道部分だけの幅員1.7m、勾配20%という狭くて長く急な坂道。石畳で舗装されたのは1877(明治10)年以降と考えられています。石材は建設当時のままです。

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【04】坂の上からの景観。対岸のクレーンは三菱重工長崎造船所

周囲の建築

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ドンドン坂を上ったところには、マリア園 註1 という修道院兼養護施設が建っています。1898(明治31)年に竣工したレンガ造3階建の西洋建築。写真04の右手がマリア園ですが、ドンドン坂沿いが無骨なブロック塀なのが少々残念です。他にも西洋館が何軒か残っていますが 註2 、個人住宅なので掲載は控えます。

ドンドン坂の由来

名前の由来は2つの説があって、ひとつは雨が降ったときに側溝を雨水がドンドンと音を立てて流れるから。もうひとつは「ダラダラ坂→ドロドロ坂→ドンドン坂」と変化したものといわれています。

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【05】

三角溝

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その側溝の形状にドンドン坂の大きな特徴があります。ドンドン坂は上部から中部・下部に従って徐々に勾配が緩くなっていて、その3段階に応じて側溝の断面形状もU字 → V字 → 矩形に変化しています。これは雨水の流量・流速調整とゴミを押し流すための工夫。明治初期の時点できちんとした土木設計が行われていた証しといえるでしょう。
 
とりわけ、石板をV字に組んだ三角溝はオランダ溝とも呼ばれていることから、考案者は不明ですが当時の外国人から伝授された可能性が考えられます。ドンドン坂をはじめ長崎市内の数カ所に現存する三角溝は、見た目は地味ながら実は立派な土木遺産なのです。

他の三角溝

参考までに、ドンドン坂以外で筆者が確認した三角溝を紹介しておきます。下記の他にも長崎市内に存在しますし、筆者は未見ですが長崎県平戸市にもあるそうです。

photo ししとき川

ししとき川
長崎市古川町
ししとき川は江戸時代に火災対策で設けられた水路のひとつ。明治時代に市内でコレラが蔓延し、衛生対策として排水が地下に浸透しないよう石で覆われた。1887(明治20)年に竣工。
photo 大浦町

大浦町の三角溝
長崎市大浦町
孔子廟の裏、日本基督教団長崎教会付近の道路側溝が三角溝になっている。ここはオランダ坂にも近い。
photo 高島

高島の三角溝
長崎市高島
長崎市の沖合に浮かぶ高島は日本の近代炭鉱発祥の地。高島炭鉱は幕末・明治初期から開発された主要炭鉱で、炭鉱経営も手掛けた貿易商グラバーの別邸もあった。島内には炭鉱施設など当時の遺構が残っている。
名称

ドンドン坂

Dondon - zaka

設計者

不詳

所在地

長崎市南山手町

用途

道路

竣工

明治時代

構造

石敷き舗装

交通

鉄道:長崎電気軌道(路面電車)大浦天主堂下電停下車 徒歩15分

備考

住宅地なので静かに見学してください

マーカー左下:ドンドン坂、右上: 大浦天主堂

補註

  1. 正式名称は幼きイエズス修道会清心修道院。竣工 1898(明治31)年。設計はフランスのセンネツ。現役の修道院・養護施設なので立ち入り・見学は不可。撮影ポイントは限られる。長崎港の対岸や船上から望遠レンズを使った方が全体像が撮れる。
  2. 東山手と南山手地区は国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。両地区に現存する西洋館等をプロットした地図が長崎市のサイトに公開されている。ドンドン坂は、リンク先の南山手B区域の番号22・23・25・31の間に位置する。

リンク

  1. あっ!とながさき > 愛着に満ちた名称を持つ長崎の坂どんどん坂
  2. ナガジン! > 居留地時代の匂いを追って
  3. 建設コンサルタンツ協会 > 協会誌 Consultant > Vol.254 特集 土木遺産X > 居留地時代を支えた「ドンドン坂」/中島知彦(PDF)

公開日:2012年9月20日、最終更新日:2012年9月20日、撮影時期:2011年7月
カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)

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