【02】
佐世保港を一望する展望台
戦後、佐世保市を含む一帯が西海国立公園の指定を受けたことで、地域内の観光地化が進みます。そして、国立公園指定10周年の記念として弓張岳山頂に展望台が整備されました。本稿で紹介するのはその展望台を覆う屋根です。
【03】
3点で支持されたコンクリートHPシェル
屋根は鉄筋コンクリート造で、正方形の対角線上の頂点を上げ下げして生じたHPシェル(双曲放物線シェル)構造になっています。テントが風を受けてピンと膨らんだようなエレガントな姿が美しい。
しかも、このシェル構造物はたった3点のピン接合で支持されています。かといって決して不安定な印象は受けないのは、構造的に安定していることが一目で分かるからでしょう。安定感と緊張感が絶妙なバランスで成り立っているのです。
【04】
坪井善勝氏の2例しかない単独作
これを設計した坪井善勝氏は、丹下健三氏の代々木屋内競技場や東京カテドラルなどの構造設計を担当し、構造面で丹下氏を支えたことで知られています。シェル構造の第一人者として世界的にも有名です。ただ、坪井氏が単独で建築設計を手掛けた事例は、弓張岳展望台と下関市体育館(山口県)のふたつしかありません。
弓張岳展望台は、地方都市の展望台という地味な存在ではありますが、シェル構造の世界的権威がデザインしただけあって、一見シンプルながら実は「用・強・美」がハイレベルで結合した傑作です。余計な機能が一切ないからこそ、構造デザインの美しさを純粋に堪能することができます。こういう建築は意外と少ない。少々不便な場所にありますが、佐世保では親和銀行本店とともに必見の建築です。
名称 | 弓張岳展望台 Yumihari-dake Observatory |
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設計者 | 坪井 善勝 TSUBOI Yoshikatsu |
所在地 | 長崎県佐世保市小野町1370-5 |
用途 | 展望台 |
竣工 | 1965(昭和40)年 |
構造・規模 | 構造:鉄筋コンクリート造(HPシェル構造) |
交通 | 車:佐世保市中心部から国道35号線を北上、天満町交差点を左折、道なりに山を登る バス:佐世保駅前から市営バス「弓張岳展望台行」に乗車 |
マーカー左から弓張岳展望台、親和銀行本店
補註
- 展望台から望遠レンズを使えば佐世保港の様子がよく見える。戦前の旧軍時代のレンガ建築や、海軍工廠を受け継いだ佐世保重工業の造船所、停泊している自衛隊や米軍の艦艇が撮影できる。
- 山頂には砲台跡が残っている。関連サイト:デイリーポータルZ > 佐世保の要塞遺構めぐり > 3ページ目
リンク
参考文献
- 『建築グルメマップ2 九州・沖縄を歩こう!』128頁、エクスナレッジ
- 『建築MAP九州/沖縄』148頁、TOTO出版
公開日:2012年4月15日、最終更新日:2012年6月16日 補註2を追記、撮影時期:2009年12月
カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)