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オートポリス アート ミュージアム ( 1/2 )
Autopolis Art Museum
大分県日田市上津江町、内藤廣、1991 (平成3)年 、現存せず
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【02】右手の道路がレーシングコース

山奥のレース場に建てられた美術館

自動車レースF1の誘致を目指し、大分と熊本の県境付近の山奥に1990(平成2)年に開業したオートポリスというレーシングコースは、九州におけるバブル時代を象徴するプロジェクトでした。しかし、バブル崩壊による運営会社の破綻後はしばらく苦しい状況が続いたものの、現在は比較的安定した経営状態でモータースポーツファンに親しまれています。
 
このオートポリスの付属施設には2組の有名建築家が関わっており、アーキテクトファイブがVIP用の観覧席ホテルを、内藤廣氏が美術館を設計しています。経営破綻後に3施設は閉鎖され、観覧席は使用を再開した一方でホテルと美術館は十数年間放置された末に解体されました。
 
本稿では筆者が2002年に撮影した閉鎖中の美術館、オートポリス アート ミュージアムについて紹介します。

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【03】右奥に観覧席(ロイヤル スタンド)がかすかに見える

儚く散った悲運の美術館

そもそもなぜレース場の中に美術館が?と疑問に思う人もいるでしょうが、バブル時代に日本が美術品を買い漁ったことを知っている人は察しが付くでしょう。要するにオートポリスの経営者が買い集めたコレクションを展示する美術館だったのです。
 
その最大の目玉は経営者が73億8千万円で競り落としたピカソの『ピエレットの婚礼』。しかし、オートポリス開業の翌年に美術館が竣工したときは既に経営が破綻しており、絵は美術館のオープンからたった3日間だけ展示された後、債権者が持って行ってしまいます。おそらく美術館として運営できたのはごく短期間だったはず。ましてや客などほとんど来なかったでしょう。
 
私が訪れたとき美術館は閉鎖中で、エンジン音が響くレース場に所在なさ気に佇む姿が哀愁を誘いました。オートポリス公式サイトの航空写真を見ると、現在は駐車場になっているようです。

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【04】

短い工期

この美術館は、設計開始から竣工まで1年余りという美術館としてはかなり短期間で完成しました。短い工期、バブルの建設ラッシュによる職人不足、敷地の自然環境の厳しさといった条件から、プレキャストコンクリートの採用など可能な限り現場の省力化が図られています。内藤氏の建築としては比較的シンプルなデザインなのも、そのような事情が影響していると思われます。

切妻の2棟で構成

建物は切妻の2棟が並んだ構成で、片方の棟は半屋外の回廊状の空間になっています。回廊はエントランスへのアプローチであるとともに、レーシングコースと美術館という動と静の全く異質な世界に対する心理的なバッファゾーン(緩衝帯)の役割もあるのでしょう。

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【05】

シーザース トラス

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建築的な見所はシーザース トラス(鋏梁)という回廊屋根の構造です。上弦を集成材、下弦を鉄筋で組んだユニークで繊細なトラスによって、大空間を形成しています。
 
閉鎖中だったので内部は見ていませんが展示室もこの構造。美術鑑賞の邪魔にならないよう心掛けつつも、技巧を凝らしたディテールになっています。構造を担当したのは構造設計集団SDG。
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【06】

受注産業の難しさ

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短い運営期間とその後の長い放置期間。レーシングコースは関係者の努力で継続しながら、美術館は誰にも顧みられることなくいつの間にか解体。オートポリス アート ミュージアムはバブル期の建築の中でも特に不遇な末路を辿った方でしょう。建物自体の完成度が高いだけに余計に辛く感じます。
 
そもそも山奥のサーキット場に美術館を設けること自体が無茶苦茶な話ですが、そこが施主から発注を受けて初めて仕事が成立する建築業界の難しいところです。
名称

オートポリス アート ミュージアム

Autopolis Art Museum

設計者

内藤廣 / 内藤廣建築設計事務所

NAITO Hiroshi / Naito Architect & Associates

所在地

大分県日田市上津江町上野田

用途

美術館

竣工

1991(平成3)年

構造・規模

構造:鉄筋コンクリート造・プレキャストコンクリート造・鉄骨造・木造

建築面積:2,261m2、延床面積:3,735m2、階数:地上2階

備考

現存せず

参考文献

  1. 『新建築』1992年1月号、新建築社

関連サイト

  1. オートポリス ウィキペディア
  2. 構造設計集団SDGSDG WORKS 1990-1994オートポリス・アート・ミュージアム
  3. 月刊OMフォーラム Vol.5衝撃!! 生きてゆく建築 朽ちてゆく建築 12
  4. カフェ・ド・エルサイトウ消えた名画 その1 オートポリスの経営者がピカソの絵を落札した経緯などを説明している。

公開日:2002年11月26日、最終更新日:2011年8月7日、撮影時期:2002年10月
カメラ:Nikon COOLPIX775(Photoshopで修正)

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