photo00
新歌舞伎座 ( 1/2 )
Shin Kabukiza
大阪市、村野藤吾、1958 (昭和33)年、現存せず
photo01

【01】
photo02

【02】

この建築の歴史的経緯

現在、新歌舞伎座として公演が行われているのは、大阪市天王寺区の上本町YUFURA 註1 の中にある劇場ですが、これは2代目であり、初代は1958(昭和33)年に中央区難波に完成しました。本稿ではこの初代の方を紹介します 註2
 
もともと大阪市には大阪歌舞伎座 註3 という劇場が戦前からありました。しかし、関西歌舞伎界の諸事情により戦後は観客動員が落ち込んだため、経営会社は客席数を減らした劇場を新たに建設、これを新歌舞伎座と名付けた次第です。よって、大阪歌舞伎座から数えれば難波の新歌舞伎座は2代目、現在の劇場は3代目という見方もできます。もっとも、新歌舞伎座は「歌舞伎」を名乗りながら実際に歌舞伎が上演されることは少なく、それ以外の演劇や演歌コンサートが公演の中心でした。

photo03

【03】

大胆なデザイン

新歌舞伎座を設計したのは関西を代表する建築家の村野藤吾氏です。「桃山風のものを」との施主の意向に対して、村野氏はファサード全体を唐破風のパターンで覆い尽くすという大胆なデザインで応えました。一見すると通俗的なデザインに思えますが、プロポーションやディテールが入念に練られているために決して下品な印象は受けません。並みの建築家ならキッチュに陥ってしまうはずで、村野氏の力量をひしひしと感じます。
 
新歌舞伎座が竣工した当時 註4 の建築界はモダニズムを教条主義的に捉える考えが強く、このデザインは商業主義だと批判を浴びたようです。しかし、もともと彼は企業家を相手に経済性・収益性重視の仕事をしてきた建築家ですから、これは批判になっていません。

photo04

【04】右の三角形は高松伸氏設計の遊戯施設ナンバヒップス

近い将来に解体か?

新歌舞伎座は建物の老朽化を理由に2010(平成22)年、上本町YUFURAに移転。以後、難波の旧劇場は空き家のままになっていますが、毎日新聞の2012年5月22日の報道等によると、同年3月に大手の冠婚葬祭会社が土地を取得し、結婚式場とホテルなどの複合施設に建て替える計画を進めているとのことです。
 
スクラップ&ビルドは商業建築の宿命といってしまえばそれまでですが、唐破風を大胆に用いたデザインは村野藤吾氏ならではのものであり、このような建築は二度と生まれないでしょう。解体するにはあまりにも惜しい。華やかなデザインなので、そのまま結婚式場にリノベーションしてはどうかと思うのですが、企業側としては収益を得るためには複合施設にしたいでしょうし、解体のおそれが高い状況です。
 
追記:2015(平成27)年2月から解体工事が始まりました。11月に終了とのこと。

名称

新歌舞伎座

Shin Kabukiza

設計

村野藤吾 / 村野・森建築事務所

MURANO Togo / Murano and Mori, Associated Architects

所在地

大阪市中央区難波4-3-2

用途

劇場

竣工

1958(昭和33)年

構造・規模

構造:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造、階数:地下2階 地上5階

建築面積:1,942m2、延床面積:11,088m2

交通

鉄道:地下鉄御堂筋線なんば駅下車

備考

2009年に閉館。2015年に解体。現存せず。


補註

  1. 上本町YUFURAは2010(平成22)年に竣工した複合商業施設で、近鉄劇場を解体した跡地に建てられた。実はこの近鉄劇場も村野藤吾の設計である。1954(昭和29)年の竣工で当初の名前は近鉄会館。偶然というより、それだけ大阪で村野が重用されていたといえる。
  2. 劇場の機能が新しい建物に移転している以上、古い方は「旧〜」と呼ぶべきところだが、「旧・新歌舞伎座」では語呂が悪いというか違和感があるので付けていない。
  3. 大阪歌舞伎座は中央区難波に1932(昭和7)年に竣工。7階建で客席数3000という大劇場だった。劇場が新歌舞伎座に移転した後はデパートに改装されるが、1972(昭和47)年に火災が発生して多くの死傷者が出る。これが有名な千日デパート火災である。建物は1983(昭和58)年に解体された。
  4. 新歌舞伎座と同じ1958(昭和33)年には米子市公会堂(鳥取県米子市)と八幡市民会館(福岡県北九州市)が竣工している。

参考文献

  1. 『建築MAP大阪/神戸』68頁、TOTO出版
  2. 『村野藤吾建築案内』146〜147頁、村野藤吾研究会、TOTO出版
  3. 『村野藤吾─建築とインテリア ひとをつくる空間の美学』アーキメディア

リンク

  1. 新歌舞伎座(大阪) ウィキペディア
  2. Het architecture大阪なんば・新歌舞伎座
  3. 日本建築学会最新の要望書・提言・報告要望書 > 2007年8月8日 大阪新歌舞伎座の保存に関する要望書(近畿支部)(PDF)
  4. 建設ニュース【民間】旧新歌舞伎座の解体工事が始まる/HIRAYAMAが施工/ベルコ
  5. THE PAGE 大阪大阪・覆われていく「旧新歌舞伎座」解体進み最後の雄姿大阪「旧新歌舞伎座」見えるのは骨組みだけとSNSで話題
  6. 建築マップで紹介している同種の建築 歌舞伎座(岡田信一郎+吉田五十八、東京都、1924・T13)

公開日:2012年5月28日、最終更新日:2015年9月19日 解体情報を追記、撮影時期:2011年11月
カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)

inserted by FC2 system