【02】
動態保存された戦前の可動橋
福岡県の筑紫平野を流れて有明海へ注ぐ九州最大の河川である筑後川。その河口付近に2本の塔を持つ独特な形の橋梁が架かっています。佐賀駅(佐賀県)と瀬高駅(福岡県)を結ぶ国鉄佐賀線の橋として1935(昭和10)年に竣工した筑後川昇開橋は、その名の通り中央の橋桁がエレベーターのように上下に動くのです。
水運の需要があった昔は、橋を架けると大型船が通過できなくなるため、鉄道と船の航行を両立する手段として多数の可動橋が建設されました。しかし、水運の衰退で必要性は低下し、各地の可動橋は撤去されるか勝鬨橋(東京都)のように動きを止めてしまっています。
筑後川昇開橋も1987(昭和62)年の佐賀線廃止に伴い撤去が検討されましたが、筑後川両岸の地元から出た保存要請を受けて、可動する機能を維持した動態保存の形で残されました。
【03】
可動橋の規模
河口付近のため川幅が広く、橋の全長は507mあります。可動するのは中心部の橋桁1スパンで長さ24m、重さ48t。両側の塔の高さは30mで、橋桁は23mの高さまで上昇します。
建設当時、筑後川昇開橋は東洋一の可動橋と謳われました。昔は「東洋一」の言葉が多用されたので注意する必要はあるものの、日本やアジアでは規模が大きい可動橋であることは確かでしょう。現存する昇開式可動橋としては国内最古(他の形式ではこれより古い可動橋が存在する)。
可動橋の現役時代、橋桁は上げた状態が基本で列車が通過するときだけ下がっていました。橋桁が上昇する様子を連続写真で載せておきます。
【04】
地域のランドマーク
赤い無骨な鉄骨構造物が青空によく映えます。この可動橋を設計したのは鉄道省の技術者。橋桁はもちろん巻上機などの設備一式までもが維持されており、現在は歩道橋として整備されています。
昇開式可動橋ならではの特徴的な塔は、竣工当時から筑後川河口地域のランドマークでした。解体の危機に瀕して地元から保存を求める声が上がった背景には、このシンボリックな塔の存在が大きかったといえます。
【05】
近代化遺産として保存
解体を免れた可動橋は、2003(平成15)年には国の重要文化財に、2007(平成19)年には機械学会の機械遺産に指定されるなど、近代化遺産として高い評価を受けています。老朽化が懸念されていましたが、2009(平成21)年から大規模改修工事が行われて当面その心配はなくなりました。2011(平成23)年2月から通行が再開。一日に数回、橋桁が昇降している他、夜間にはライトアップも実施されています。
名称 | 筑後川昇開橋 Chikugo River Lift Bridge |
---|---|
設計 | 橋梁 稲葉権兵衛 / 鉄道省 INABA Gonbei / Ministry of Railways 昇開機構 坂本種芳 / 鉄道省 SAKAMOTO Taneyoshi / Ministry of Railways |
所在地 | 佐賀県佐賀市諸富町大字為重・福岡県大川市大字小保 |
用途 | 橋(当初:鉄道橋、現在:歩道橋) |
竣工 | 1935(昭和10)年 |
構造・規模 | 構造:鉄骨造(可動橋としての構造は昇開式) 橋長:507m(全体)、24m(可動部分) |
交通 | バス:佐賀市営バス 昇開橋前下車、西鉄バス 大川橋下車 |
備考 | 橋桁の昇開やライトアップの時刻、休業日については公式サイトで確認のこと。 国指定重要文化財、日本機械学会認定機械遺産第23号 |
中央の青マーカーが筑後川昇開橋
補註
- 鉄道橋としての正式名称は筑後若津橋梁だった。重要文化財としては「旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)」の名称で登録されている。
- 筑後川昇開橋は佐賀と福岡の県境にあるが、国鉄佐賀線の橋梁だったことから当サイトでは佐賀インデックスに登録している。
- 佐賀線には可動橋がもう1基あった。筑後川昇開橋から近い花宗川に架かっていて、可動橋の形式は跳開式(いわゆる跳ね橋)。こちらは廃線後に撤去されて現存しない。
- 可動橋の形式には昇開式、跳開式、旋回式、引込式などがある。
- 筑後川昇開橋の下流域にはデレーケ導流堤という土木遺産がある。川の流れを速めて土砂の堆積を防ぐために筑後川の中心に築かれた石積みの堤で、オランダ人デ・レーケの設計により明治時代に建設された。ただし、干潮時しか見られない。
リンク
- 筑後川昇開橋公式ホームページ
- 筑後川昇開橋、可動橋 ウィキペディア
- 九州ヘリテージ > マップ > No.13 筑後川昇開橋(筑後川橋梁)
- 文化遺産オンライン > 旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)
- 日本機械学会 > 機械遺産 > 機械遺産一覧 > 23 旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)
- あじこじ九州 > 福岡県 > 筑後エリア > 筑後川昇開橋
- 時事ドットコム > 特集 > 筑後川昇開橋 写真特集
- ALL-A blog > 可動橋リスト 筆者のブログ
参考文献
- 『九州遺産 近現代遺産編101』砂田光紀、弦書房
- 『鉄の橋百選』土木学会鋼構造委員会歴史的鋼橋調査小委員会、東京堂出版
- 土木学会 > 土木図書館 > デジタルアーカイブス > 土木学会誌 > 第21巻第1号(昭和10年) > 佐賀線筑後川梁上部構造設計に就て(PDF)稲葉権兵衛、佐賀線筑後川橋梁可動装置の設計に就て(PDF)坂本種芳
公開日:2004年8月15日、最終更新日:2013年6月16日、撮影時期:2003年11月、ライトアップは2006年12月
カメラ:Nikon COOLPIX775、Nikon D50(Photoshopで修正)