【02】
閑静な温泉地の博物館兼コミュニティセンター
川棚温泉のある豊浦町は、下関市の北部に位置する日本海に面した町です(2005年に下関市と合併)。下関市の中心部から川棚温泉までは車で30分程度。山陰本線の駅もありますが、温泉地としては観光客は少ないところで、「下関の奥座敷」とも呼ばれています。
この温泉地に2010年、民俗資料館とコミュニティセンターの機能を併せ持った下関市川棚温泉交流センター 川棚の杜が開館しました(建物の竣工はその前年)。設計はプロポーザルを勝ち取った隈研吾氏の事務所です。
【03】
純粋な建築
川棚の杜の最大の特徴がその独特な形状であることは誰の目にも明かですが、それ以上に私は建物の純粋性に驚きました。一般にある建物を見たとき、計画段階の模型やCGと実際とのギャップに戸惑うことがあります。雨樋・笠木・サインなどの付属物が造形そのものの姿を損なってしまうことが一因ですが、川棚の杜にはその種の付属物がほとんど存在せず、まるで建築模型やCGをそのまま実体化したかのような純粋な姿の建築が立ち上がっています。これはなかなか出来ないことです。
【04】
多面体の理由と構造
三角形で構成された多面体という形状は、決して奇をてらったものではありません。不整形の複雑な敷地の中に、民俗資料館・交流スペース・音楽ホールといった諸機能を内包する空間を柱無しで実現するために導き出されたデザインです。構造は鉄骨造で、壁とも屋根ともいえる外装は120mm厚のコンクリートスラブ。プレキャストではなく現場打ちです。
【05】
巧みな塗り分け
これほどユニークな形でありながら、川棚の杜は町並みや自然に意外と上手く馴染んでいます。その理由は、形やスケール感の絶妙さもさることながら、表面の塗装と質感によるところが大きい。現地で多面体の微妙な陰影に感心したのですが、実際は4色に塗り分けていたと後で知りました。この塗り分けが実に巧みです。
謎の地下通路
【06】
内部空間
内部には、民族資料の展示室、小交流室(カフェ)、大交流室(ホール)のおおまかに3つのスペースがあり、展示室と小交流室は緩やかに連続した空間になっています。撮影禁止につき内部の様子はお見せできませんが、多面体の形がそのまま現れた洞窟のような空間に、鉄骨や設備の配管が露出しているという、スケルトン的な内装に仕上がっています。
また、展示室には手の込んだ美しい工芸品が並んでいて、こちらもなかなか見応えがあります。建築関係では昔の墨壺などが展示されていて、興味深く拝見しました。
安養寺木造阿弥陀如来坐像収蔵施設
住所:下関市豊浦町大字厚母郷541
備考:「新建築」掲載時と異なり外部から建物内部や仏像は見えない。見学希望者はお寺に申し出ること。仏像は撮影禁止なので実質的に内部の撮影はできない。
近隣の隈研吾氏の建築
川棚の杜から車で10~15分くらいのところの安養寺には、隈研吾氏の設計による阿弥陀如来像収蔵施設があります。その名の通り、仏像を収めるための建物です。こちらもお見逃し無く。
建物名 | 下関市川棚温泉交流センター 川棚の杜 Shimonoseki City Kawatana Community Center, Kawatana no Mori |
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設計者 | 隈 研吾 / 隈研吾建築都市設計事務所 KUMA Kengo / Kengo Kuma and Associates |
所在地 | 山口県下関市豊浦町川棚5180 |
用途 | 博物館、コミュニティセンター |
竣工 | 2009(平成21)年 |
構造・規模 | 構造:鉄骨造 建築面積:1,107.81m2、延床面積:1,242.85m2 |
交通 | 車:中国自動車道 下関ICまたは小月ICから20〜30分 鉄道:山陰本線 川棚温泉駅下車 タクシーで3分 |
備考 | 入場無料 |
関連サイト
- 下関市川棚温泉交流センター 川棚の杜 公式サイト
- 川棚温泉 公式サイト
- 豊浦町観光協会
- 建築系ラジオポータルサイト > 藤原徹平×西村浩「下関市川棚温泉交流センターのプロセスから」1/5・2/5・3/5・4/5・5/5
参考文献
- 『日経アーキテクチュア』2010年2月22日号、日経BP社
- 下関市川棚温泉交流センター 川棚の杜 パンフレット
公開日:2010年10月16日、最終更新日:2010年10月16日、撮影時期:2010年3月
カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)