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下関漁港閘門 水門橋 ( 1/2 )
Shimonoseki Fishing Port Lock, Watergate Bridge
山口県下関市、未確認、1982(昭和57)年
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【01】閘門を軸線上から見る。門扉・水門橋とも下りた状態。左が彦島で右が本土。背後には彦島の造船所が見えている。

閘門建設の経緯

本州と九州を隔てる関門海峡の西側(東シナ海側)に彦島という島があります。行政上は山口県下関市に属し、3万人以上が住む人口の多い島です。島といっても地図では本州とほとんど地続きに見えますが、実際には小瀬戸という狭い海峡で隔てられています。もともと狭い海峡だったものが、1937(昭和12)年に完了した埋め立て工事で最も狭い部分は幅8mにまで狭まりました。
 
彦島が関門海峡西端に位置するということは小瀬戸は東シナ海と瀬戸内海に面します。双方の干満差から生じる潮流は激しく、そのままでは漁港の安全が保てないため、1938(昭和13)年に最小幅部分に閘門(こうもん)註1 が建設されました。これが初代の下関漁港閘門です。

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【02】コンクリート枠が閘門の門扉の巻上機構。中央が水門橋。

戦後から現在まで

初代閘門の門扉は水平方向にスライドする引き戸式で、ユニークなことに門扉の上部は人や車が通行可能でした。つまり可動橋を兼ねていたのです。
 
1947(昭和22)年、小瀬戸に関彦橋(かんげんきょう)が完成。これは木製だったので車は通行できなかったものの、同橋は1954(昭和29)年にコンクリートで架け替えられます。1961(昭和36)年、閘門は巻上式ローラーゲートの2代目に変わります。門扉上部には幅1.5mの歩道が併設され、閘門側の車の通行はなくなりました。
 
その後、彦島大橋という新たな橋が完成しますが、これが有料道路だったためか(現在は無料)関彦橋の交通量は依然多く、そこで1982(昭和57)年に閘門中央に水門橋という可動橋が架けられました。さらに1986(昭和61)年、閘門が3代目に更新されて現在の姿になります。

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【03】

下関漁港閘門の特徴

下関漁港閘門の特徴は2つあります。ひとつは海峡の閘門。そもそも舟運の需要が減少した日本では現役の閘門自体少ないのですが、現存する閘門はほとんどが運河や河川にあるもので海峡の閘門はかなり珍しい。
 
もうひとつは可動橋との併用。水門では可動橋と併用した事例はいくつかありますが、閘門と可動橋の併用は、私が調べた限り、国内では下関漁港閘門の他には尼崎閘門(兵庫県尼崎市)など1〜2カ所しかありません。
 
さらに付け加えると、尼崎は閘門の扉と可動橋は独立した構造なのに対して、下関の初代閘門は扉自体が可動橋の機能を兼ねていました。現在の水門橋は閘門とは別個の構造ですが、閘門の扉の上部は2代目・3代目とも歩道で、これは昇開式可動橋といえます。点検用通路ではなく一般人が扉上部を通行できる閘門や水門は、あまり例がないはずです。

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【04】

可動橋として独特な形の水門橋

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閘門の中央に車を通すために設置された水門橋もかなり独特な形をしています。この橋は、下の連続写真のように橋桁が上下に動く昇開式というタイプの可動橋です。一般的な昇開式可動橋は、例えば 筑後川昇開橋のように2本の塔が建っているものですが、この水門橋は両岸の昇開機構を梁で連結して井桁状に組んでいます。いくつかの可動橋を見てきた私もこの形は初めて見ました。
 
余談ですが、閘門に架かる橋ならば本来は閘門橋とすべきで、水門橋という名前は適当ではないというか正確さに欠ける感じがします。名前が「肛門」を連想させるので避けたのでしょうか。
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【05】

3つ並んだ可動橋

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写真05は閘門の門扉上から見たところ。両端の門扉と水門橋で3基の可動橋が並んでいるというのも珍しい。両端の門扉と水門橋で3基の可動橋が並んでいるというのも珍しい。
 
ご覧の通り、水門橋が上がっていても閘門は閉じています。私が見た限りでは、航行する船がないかぎり閘門は開かない一方、水門橋は船の有無に関わらず規定の時刻に開くようです。船が通らないなら橋桁は上げなくていいような気がしますが、何か理由があるのでしょう。
名称

下関漁港閘門 水門橋

Shimonoseki Fishing Port Lock, Watergate Bridge

設計

未確認

所在地

山口県下関市大和町2・彦島本村町6

用途

閘門、橋

竣工

初代閘門:1936(昭和11)年

現在(3代目)の閘門:1986(昭和61)年

水門橋:1982(昭和57)年

構造

閘門:鉄筋コンクリート造(門柱)、アルミ合金(門扉)

水門橋:鉄骨造

交通

鉄道:下関駅下車 徒歩約30分


補註

  1. 水位の異なる水面を船が航行するための仕組み。二つの水門で閉鎖した部分に船を入れて水位を上下に調整する。
  2. 初代閘門の完成は1938(昭和13)年だが、本文で述べたとおりその後2回建て替えていて当時の部分は残っていない。
  3. 写真02の小瀬戸と道路との間の空き地は下関魚市場に延びていた引き込み線の廃線跡。市場内にはレールが残っている。
  4. 閘門の周辺には廃線跡・鉄道の車両基地・造船所などがある。派手な光景ではないが、産業景観が好きな方なら楽しめるだろう。
  5. 門扉がひとつだけの閘門も存在する。干満の差が大きい船溜まりに設ける場合で、国内では三池港閘門(福岡県大牟田市)がこのタイプ。この三池港閘門にも可動橋がある。

参考文献

  1. 『運河と閘門 水の道を支えたテクノロジー』久保田稔 他、日刊建設工業新聞社

リンク

  1. 日子の島 > 写真で見る彦島の姿 彦島と海下関の水産業
  2. 彦中三八ブログ水門=下関漁港閘門
  3. レイル・マガジン台車近影その7 下関・水門橋
  4. 閘門可動橋彦島 ウィキペディア
  5. ALL-A blog可動橋リスト 筆者のブログ
  6. 建築マップで紹介している他の可動橋 ブルーウィングもじ(福岡県)、筑後川昇開橋(佐賀県・福岡県)、本渡瀬戸歩道橋(熊本県)、タワーブリッジ(イギリス)、セント キャサリン ドックの可動橋群(イギリス)

公開日:2004年8月31日、最終更新日:2011年8月20日、撮影時期:2004年7月・8月
カメラ:Nikon COOLPIX775(Photoshopで修正)

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