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下関市近代先人顕彰館 田中絹代ぶんか館 / 旧 下関郵便局電話課庁舎 ( 1/2 )
Shimonoseki Memorial Museum of Modern Forerunners, TANAKA Kinuyo Cultural Museum
山口県下関市、逓信省営繕課+文化財保存計画協会、1923(大正12)年・2010(平成22)年
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建物の歴史

この建物は下関郵便局電話課の庁舎、つまり電話局として大正時代に建設されました。逓信省(ていしんしょう)営繕課が設計した当時としては斬新なデザインの建物です。昭和40年代に電話局が移転してからは下関市役所の別館に使われた後、市は老朽化のため解体の方針を決定しますが市民の保存運動を受けてこれを撤回。2010(平成22)年、下関出身の女優 田中絹代をはじめ地元ゆかりの文化人を紹介する記念館としてリニューアルオープンしました。
 
逓信省とは戦前に郵便・電話を管轄していた省庁で、その営繕課が設計した郵便局・電話局等の逓信建築は、明治時代の古典様式から始まって大正・昭和にかけて分離派・表現主義からモダニズムへと発展します。ちなみに建て替えか保存かで話題になった東京と大阪の中央郵便局はモダニズム期を代表する逓信建築です。

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分離派について

一方、下関の庁舎のデザインは分離派と呼ばれる芸術運動に基づいています。分離派は19世紀末のヨーロッパで既存の芸術から分離して新たな創造を探求する目的で興り、日本では1920(大正9)年に東大建築学科の学生達が結成した分離派建築会を発端とします。一時期の逓信省営繕課は同会出身の山田守らを擁して分離派デザインの建物を相次いで建てました。下関郵便局電話課庁舎は現存する数少ない分離派建築という歴史的に貴重な文化財です。
 
日本の分離派は思想的にはウィーン分離派をモデルにしているものの、実際のデザインはドイツ表現主義の影響を受けているといわれています。ただし、この部分はどこからの影響などと具体的に指摘することは難しく、むしろ自由な創造の産物といった方がいいかも知れません。ヨーロッパ建築の歴史様式を知る者ほど下関の庁舎の大胆でアンバランスなデザインには戸惑うに違いありません。

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デザインの見所その1 パラボラアーチ

建物頂部の放物線状の屋根はパラボラアーチと呼ばれています(写真04)。分離派建築の中でもパラボラアーチの屋根の現存例となるとさらに少なく、他には復興小学校 註1 に1~2件が残るぐらいでしょうか。かつてこの内部には防火水槽が設置されていて、火災時には壁面上部に並んだ長方形の開口部(写真05)から放水して水幕を張り延焼を防止する仕組みでした。今でいうドレンチャーです。

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デザインの見所その2 柱

壁面に並ぶ柱は構造的に必要なものの他に、荷重を負担していない見かけ上のフェイク(付柱という)も混ざっています(写真05・06)。列柱を強調した立面やその柱の溝掘りはいちおう歴史様式の手法を踏まえているものの、柱頭に装飾がなく上端でバッサリ切断するなど様式のルールに囚われない自由なデザインが分離派らしいといえるでしょう。

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内部空間

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電話局から市役所別館に使われた後、市が退去してしばらく空き家だったこの建物はかなり傷んでいたのですが、改修工事によって外観はほぼ竣工当時の姿になったと思われます。内部は文化人の記念館に変わったものの、当時のディテールも残っていますし建築的価値に関する展示物もあります。写真06は3階の休憩室。なお、2階の展示室は著作権保護のため撮影禁止なので注意してください。

下関南部町郵便局
旧 門司郵便局電話課

左:旧 赤間関郵便電信局、右:旧 門司郵便局電話課庁舎

近隣の逓信建築

ちなみに、下関市には1900(明治33)年に竣工した現役最古の郵便局である旧 赤間関郵便電信局(現 下関南部町郵便局、写真左)が、関門海峡対岸の福岡県北九州市門司区には分離派の旗手 山田守が設計した旧 門司郵便局電話課庁舎(現 門司電気通信レトロ館、写真右)がありますので、これらの見学もお勧めします。

建物名

下関市立近代先人顕彰館 田中絹代ぶんか館

Shimonoseki Memorial Museum of Modern Forerunners, TANAKA Kinuyo Cultural Museum

旧 建物名

下関郵便局電話課庁舎

Shimonoseki Post Office Telephone Section

設計者(電話課庁舎)

逓信省営繕課

Ministry of Communications Design Section

設計者(近代先人顕彰館)

文化財保存計画協会

Japan Cultural Heritage Consultancy

所在地

山口県下関市田中町5-7

用途

竣工時:電話局、改修後:記念館

竣工

1923(大正12)年、改修:2010(平成22)年

構造・規模

構造:鉄筋コンクリート造 一部レンガ造、階数:地上3階

交通

バス:唐戸バス停 または 西の端バス停で下車、徒歩数分。

車:専用駐車場無し。近隣の市営駐車場から徒歩約5分。

備考

2階展示室は撮影禁止

中央のマーカーが下関市立近代先人顕彰館

補注

  1. 関東大震災後に建設された一連の小学校のこと。この内、九段小学校と旧 坂本小学校がパラボラアーチの屋根を有する。

リンク

  1. 下関市近代先人顕彰館 田中絹代ぶんか館 公式サイト
  2. 分離派建築博物館逓信省の建築下関電話局
  3. 収蔵庫・壱號館田中絹代ぶんか館(下関市立近代先人顕彰館)
  4. 電話局の写真館逓信省建築局下関市庁舎第1別館(旧下関電信局電話課)
  5. 下関市役所第一別館のページ
  6. BS日テレ 知られざる百年遺産 わが町の建築物語放送内容第13回放送 市民が守った名建築「旧下関電信局電話課庁舎」の物語
  7. 分離派建築会 ウィキペディア

参考文献

  1. 『建築MAP 北九州』160頁、TOTO出版
  2. 『中国・四国を歩こう! 建築グルメマップ4』56頁、エクスナレッジ

建築マップで紹介している逓信建築(年代順)

  1. 中京郵便局(歴史様式、京都市、1902、明治35)
  2. 西陣電話局(分離派、京都市、1922、大正11)
  3. 下関市立近代先人顕彰館、旧 下関郵便局電話課(分離派、山口県下関市、1923、大正12)
  4. 門司電気通信レトロ館、旧 門司郵便局電話課(分離派、福岡県北九州市、1924、大正13)
  5. 京都電電ビル西館、旧 京都中央郵便局、現 新風館(モダニズム、京都市、1926、大正15)
  6. 別府市児童館、旧 別府郵便電話局電話分室(分離派・モダニズム、大分県別府市、1928、昭和3)
  7. 東京中央郵便局(モダニズム、東京都、1933、昭和8)
  8. 大阪中央郵便局(モダニズム、大阪市、1939、昭和14)

公開日:2010年10月16日、最終更新日:2014年8月23日 1ページの掲載写真の修正と追加、撮影時期:2010年3月
カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)

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