【02】
テムズ川の水運で発達したロンドン、その衰退と再生
ロンドンはテムズ川の水運によって発展してきた都市で、かつて川岸には物資を荷揚げしたり保管するための波止場や倉庫がいくつもありました。しかし水運の需要低迷に伴い波止場は閉鎖され、寂れてしまいます。そこで1980~90年代以降、荒廃した都市を再生すべくテムズ川のウォーターフロント再開発が積極的に行われました。現在のロンドンの活況ぶりは、これらの再開発が成功した結果といえるでしょう。
バトラーズ ワーフの歴史
ロンドンのシンボルである
タワーブリッジの周辺では3ヶ所の旧波止場が再生されていて、本稿で取り上げるバトラーズ ワーフは一連の再開発の先駆けというべきプロジェクトです。なお他の2件、
セント キャサリン ドックと
ヘイズ ガレリアも別の記事で紹介しています。
バトラーズ ワーフとはタワーブリッジ南東部の地区の名前で、穀物を扱っていたバトラーという人物が地主から倉庫を賃借したことに由来します。現存する旧倉庫が竣工したのは1873年。全盛期は紅茶・コーヒー・香辛料を扱う倉庫街として賑わいますが、水運の低迷と都市中心部の荒廃から1972年に全ての倉庫が閉鎖されました。
バトラーズ ワーフとはタワーブリッジ南東部の地区の名前で、穀物を扱っていたバトラーという人物が地主から倉庫を賃借したことに由来します。現存する旧倉庫が竣工したのは1873年。全盛期は紅茶・コーヒー・香辛料を扱う倉庫街として賑わいますが、水運の低迷と都市中心部の荒廃から1972年に全ての倉庫が閉鎖されました。
Googleマップのキャプチャを加工
【03】
テレンス コンラン氏によるマスタープラン
バトラーズ ワーフの再開発は、ロンドンドックランズ開発公社が発足した1981年から本格的に始まります。民間の活用を方針とする公社はバトラーズ ワーフのマスタープランナーにテレンス コンラン氏
註1 を起用。同氏の事務所
註2 が作成したマスタープランに基づき、1980〜2000年代にかけて地区内の倉庫は商業施設や集合住宅などにコンバージョン(用途転用)され、オシャレな街に生まれ変わりました。別記事で紹介している
デザインミュージアムや
ホースリーダウン スクエアも実はバトラーズ ワーフ再開発事業の一部です。
バトラーズ ワーフで特に人気があるのは、テムズ川沿いの建物(写真02・03の左側)に入っているコンラン氏がプロデュースしたレストランでしょうか。ここは観光ガイドにもよく取り上げられています。ところで、前述したようにバトラーズ ワーフは地区の名前なのですが、川沿いの建物自体もバトラーズ ワーフと呼ばれているので、混同しないよう注意してください。 註3
この川沿いの建物の内側の道をシャド テムズ通りといいます。ここは、道路の上に何本ものブリッジが架かっているという面白い光景が広がっていて、まるでファンタジー映画の舞台のようです。このブリッジは倉庫として使われていた頃からあったもの。シャド テムズ通りの往来を妨げることなく荷物を出し入れするために設置されたものと思われます。そしてコンバージョン後は上階の集合住宅のバルコニーに。他にも倉庫時代のクレーンを外壁に残すなど(右上の写真)、倉庫の面影を感じさせる仕掛けが随所に見られます。
立地条件に恵まれていたという背景はあるにせよ、産業遺産の特徴を活かしながら再生し、テナントの繁盛や不動産価値の向上などビジネス的に成功させたコンラン氏の手腕は見事なものです。バトラーズ ワーフは事業性を含めた総合的な視点からコンバージョン/リノベーションのお手本とすべき事例でしょう。
バトラーズ ワーフで特に人気があるのは、テムズ川沿いの建物(写真02・03の左側)に入っているコンラン氏がプロデュースしたレストランでしょうか。ここは観光ガイドにもよく取り上げられています。ところで、前述したようにバトラーズ ワーフは地区の名前なのですが、川沿いの建物自体もバトラーズ ワーフと呼ばれているので、混同しないよう注意してください。 註3
立地条件に恵まれていたという背景はあるにせよ、産業遺産の特徴を活かしながら再生し、テナントの繁盛や不動産価値の向上などビジネス的に成功させたコンラン氏の手腕は見事なものです。バトラーズ ワーフは事業性を含めた総合的な視点からコンバージョン/リノベーションのお手本とすべき事例でしょう。
名称 | バトラーズ ワーフ(バトラーズ ウォーフとも) Butler's Wharf |
---|---|
設計者 | テレンス コンラン + フレッド ロシェ / コンラン ロシェ Terence Conran + Fred Roche / Conran Roche |
住所 | イギリス、ロンドン 36d Shad Thames, London SE1 2YE |
用途 | 当初:倉庫 改修:商業施設、集合住宅 |
竣工 | 当初:1873年 改修:1980年代 |
構造 | レンガ造(推定) |
交通 | 鉄道:Tower Hill 駅または Tower Gateway 駅下車、タワーブリッジを渡る。徒歩約15分。 |
右から2番目がバトラーズ ワーフ
補註
- コンラン氏は日本ではインテリアショップやレストランの経営者というイメージが強いが、実際は建築や都市計画の仕事も行っている。
- もともとバトラーズ ワーフの再開発はコンラン氏とロシェ氏が共同で設立した事務所コンラン ロシェが手掛けていたが、ロシェ氏は1992年に逝去。現在はコンラングループの一部門であるコンラン アンド パートナーズが担当しているようだ。
- 地区名に対して建物名を厳密に区別する場合はバトラーズ ワーフ ビルディングと表記する。しかし、ほとんどの媒体(ネット・書籍とも)が建物名を単にバトラーズ ワーフとしているので本稿もそれに従った。
参考文献
- 『世界のSSD100 都市持続再生のツボ』東京大学cSUR-SSD研究会、彰国社
リンク
公開日:2013年6月29日、最終更新日:2013年6月29日、撮影時期:2004年9月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)