
Googleマップのキャプチャ
親子二代の建築家が設計したまちなみ
イングランド西部の温泉地バースは、ケルト人や古代ローマ人が都市の礎を築きましたが、現在のまちなみが造られたのはおおむね18世紀のこと。バースは上流階級の保養地として発展します。その開発に大きく貢献したのが二代にわたる建築家のジョン ウッド親子です(父と子は同名)。
18世紀のロンドンの都市開発では、四角形の広場や公園(スクエア)を集合住宅で取り囲む手法が登場していました。ジョン ウッド(父)はバースのクイーンズ スクエアにこれを採用。次に、円形という画期的な形をした集合住宅サーカスを設計するも、完成を見ることなく彼は亡くなってしまいます。息子がその仕事を引き継いで完成させ、さらに息子は
ロイヤル クレセントという半楕円形の集合住宅を設計しました。
こうして、クイーンズ スクエア、サーカス、ロイヤル クレセントとそれらをつなぐゲイ ストリート、ブロック ストリートという見事なまちなみが親子二代の建築家によって完成した次第です。

サーカスからゲイ ストリートを見る
こうして、クイーンズ スクエア、サーカス、ロイヤル クレセントとそれらをつなぐゲイ ストリート、ブロック ストリートという見事なまちなみが親子二代の建築家によって完成した次第です。

【02】
建築的特徴

パラペット(上部の低い壁)に並んでいる奇妙な装飾は、ケルトのブラドゥード伝説に由来するドングリ 註1 を模したものだそうです。

【03】
建築・都市計画への影響
このような歴史的建築物や伝説からの参照は、バース建設の先駆者であるケルト人やローマ人に対するジョン ウッド(父親)の敬意の表れと思われます。とはいえ、知識がなければ分からないほど控えめな表現にとどまっており、全体的には統一感のあるまちなみの創出に成功しています。実際、ジョン ウッド親子が建築デザインや都市計画に及ぼした影響は大きく、その後、イギリス各地にサーカスやクレセント型建築が建てられました。

【04】

ブロック ストリートからサーカスの中心部を見る
巧みな空間構成
円形の内側に出入りするにはどこかで切断する必要があるわけで、サーカスは120度ずつ3ヶ所に切れ目が入っています。つまり、中心角120度の扇形3棟による構成ともいえます。中心には大樹。同じパターンの立面で囲まれていることもあって、中庭は人工的な閉じた楽園という印象です。
周りを囲まれたクイーンズ スクエアやサーカスと、細長いヴィスタを見せるストリートを経てロイヤル クレセントへ着くと、視界が一気に広がります。その演出に感動すると同時に、親子で受け継いだ空間構成の巧みさにも感心せずにはいられません。
名称 | サーカス Circus |
---|---|
設計者 | ジョン ウッド ジ エルダー(父親) John Wood the Elder |
所在地 | イギリス、バース Bath, UK |
用途 | 集合住宅 |
竣工 | 1764年 |
構造・規模 | 構造:石造、階数:地下1階 地上3階 |
交通 | 鉄道:バース スパ駅で下車、徒歩20~30分 |
備考 | 世界遺産(バース市街として) |
左からロイヤル クレセント、サーカス
補註
- 伝説によると、ケルトの王子ブラドゥードは病気を患ったために国を追われ、豚飼いとなった。ある日、彼が熱湯が湧き出るところに豚を連れて行くと、豚は温かいドロの中を喜んで転げ回り、ドングリで釣らないとそこを離れなかった。そこでブラドゥードも温泉に浸かると病が癒えたという。王位に就いた彼は、紀元前863年にその場所に都市を築いた。これがバースの起源とされている。
参考文献
- 『世界の建築・街並みガイド2 イギリス/アイルランド/北欧4国』33頁、エクスナレッジ
- 『ピトキン・シティ・ガイド バース』ジャロルド パブリッシング(現地で購入した日本語版ガイドブック)
- 『都市デザイン 野望と誤算』SD選書236、J・バーネット著、兼田敏之訳、鹿島出版会
リンク
- The Circus (Bath) ウィキペディア英語版
公開日:2005年4月23日、最終更新日:2012年10月6日、撮影時期:2004年9月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)