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ロイヤル クレセント ( 1/2 )
Royal Crescent
バース、ジョン ウッド ザ ヤンガー、1775
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【01】
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【02】

世界で最も美しい集合住宅

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イングランド西部のバースは温泉が出る街として人気のある観光地です。その歴史を遡ると、紀元前から1〜2世紀頃にかけてまず街を築いたのはケルト人やローマ人ですが、現在のまちなみが形成されたのはおおむね18世紀のこと。
 
この世界遺産に登録されるほど美しいまちなみを象徴する建築が、 サーカスとロイヤル クレセントというふたつの集合住宅です。特に後者、イオニア式の列柱に飾られた半楕円形の建物、その形に抱かれるように広がる芝生と青空、そして芝生でくつろぐ人々… この光景を目の当たりにすると、ロイヤル クレセントこそ世界で最も美しい集合住宅だという評価が過言ではないと共感していただけるでしょう。
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左:ロイヤル クレセント、右:サーカス(Googleマップのキャプチャ)

親子二代で設計

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円形のサーカスと半楕円形のロイヤル クレセントは、ストリートを介して連続的に建っています。建築家ジョン ウッド親子の父親がまずサーカスを設計しますが、途中で亡くなったために息子が引き継ぎ、その後、ロイヤル クレセントも息子が設計しました(父と子は同名)。保養地として開発が進んだ18世紀のバースで、ジョン ウッド親子は複数の建築やまちなみを設計し、都市計画上の重要な役割を果たしています。
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【03】

サーカス&クレセント型の流行

幾何学的形状の広場を集合住宅で囲む方法は、近世のパリやロンドンから始まりました。当初の広場はスクエア(四角形)が主流だっただけに、ジョン ウッド親子のサーカスとロイヤル クレセントという画期的なデザインの影響は大きく、イギリス各地でこの形状が流行しました。イギリスの都市をGoogleマップの航空写真モードでスクロールすると、クレセントやサーカス型の建物をいくつか見つけることができるはずです。

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【04】

テラスハウス

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ロイヤル クレセントの集合住宅としての形式はテラスハウスです。テラスハウスとは住戸が横方向にのみ連続し、異なる住戸が上下に重なることはありません。日本では高度成長期の団地に事例があるものの、その後はあまり普及していませんが、イギリスの集合住宅はこの形式が多数を占めます。
 
ロイヤル クレセントの戸数は30、階数は地上3階、地下1階。現在も住民が暮らしているので中には入れませんが、東端の住戸は建設当時のインテリアを復元した博物館として一般公開されています(ただし内部撮影は禁止)。また、一部は The Royal Crescent Hotel というホテルになっているので、宿泊すれば存分に見学が可能です。
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【05】

ドライエリア

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ロイヤル クレセントは、独特な形をしていたり、上流階級向けということで立面に列柱が施されたりしているとはいえ、基本的な構成は従来のテラスハウスと大差はなく、地階の倉庫やそこに出入りするドライエリア(空堀)も備わっています。現在は地階も居室に使っている住戸が多いようで、ドライエリアにテーブルセットや鉢植えなどを置いてガーデンにしているところも見られました。

単純だが上手く隠した石垣

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芝生が半楕円形に囲まれた部分とその外側とを隔てる位置には、石垣の段差が設けられています。これは、当時放牧されていた羊や牛の侵入を防ぐための障壁で、ロイヤル クレセントの部屋から外を眺めた場合は、連続した芝生にしか見えないようになっています。
名称

ロイヤル クレセント(ロイヤル クレッセントとも)

Royal Crescent

設計者

ジョン ウッド ザ ヤンガー(息子)

John Wood the Younger

所在地

イギリス バース

Bath, UK

用途

集合住宅

竣工

1775年

構造・規模

構造:石造、階数:地下1階 地上3階

交通

鉄道:バース スパ駅で下車、徒歩20~30分

備考

世界遺産(バース市街として)

左からロイヤル クレセント、サーカス


補註

  1. 日本国内にもクレセント型に近い集合住宅がわずかながら存在する。筆者が把握しているのは旧日本住宅公団 桜川市街地住宅(大阪市浪速区桜川3)、播磨科学公園都市の賃貸住宅であるオプトハイツ(磯崎新アトリエ+設計組織ADH、兵庫県赤穂郡上郡町光都2-20-3)、アイランドシティ・インフィニガーデン(福岡市東区香椎照葉3-2)の3件。

参考文献

  1. 『世界の建築・街並みガイド2 イギリス/アイルランド/北欧4国』33頁、エクスナレッジ
  2. 『ピトキン・シティ・ガイド バース』ジャロルド パブリッシング(現地で購入した日本語版ガイドブック)

リンク

  1. Royal Crescent ウィキペディア英語版

公開日:2005年4月23日、最終更新日:2012年10月6日、撮影時期:2004年9月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)

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