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ヘイズ ガレリア ( 1/2 )
Hay's Galleria
ロンドン、トゥイッグ ブラウン アーキテクツ、1856・1986年
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華やかなガラスのアーケード

ヨーロッパの都市を歩いていると不意にガラス張りのアーケードに遭遇することがあります。アーケードといっても日本の商店街とは雰囲気が大きく異なり、石造やレンガ造の通路に光が降り注ぐ空間は歴史や風格を感じさせます。この種の空間で最も有名なのはイタリアのミラノにあるガレリアでしょうか。ここで紹介するヘイズ ガレリアは、ロンドンの中心地区シティのテムズ川を挟んだ対岸にある商業施設です。ロンドン塔やタワー ブリッジといった観光名所がひしめくエリアの一角にあります。

ヘイズ ガレリアの歴史

水運が物流の中心だった頃のテムズ川は数多くの船が行き交い、岸辺は停泊する船で埋め尽くされる程でした。ヘイズ ガレリアの建物はもともと19世紀半ばに建設されたヘイズ ワーフという波止場で、主に紅茶などが荷揚げされていました。しかし、物流事情の変化で水運の取扱量が減少するとテムズ川沿いの波止場はさびれてしまいます。

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リノベーション

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この地区が再び活気を取り戻したのは、1980~1990年代にかけて行われた再開発のおかげです。倉庫だった建物に飲食店などのテナントが入り、おしゃれな観光スポットに生まれ変わりました。
 
ヘイズ ワーフのリノベーション(改修)はロンドンの設計事務所 Twigg Brown Architects が手掛けました。元の建物は細長いコの字型で一端がテムズ川に開いています。おそらく波止場の機能性から決定した空間構成だと思いますが、結果的に開放性と閉鎖性が程よく釣り合った空間が生まれています。
 
そして、テムズ川と直角ではなく微妙に振れた角度が実に絶妙。この角度は空間が単調に陥ることを救い、ガレリアとしては小規模にも関わらず奥行きを感じさせることに上手く作用しています。これが設計者の計算ではなく元の建物がたまたまそうだったという点が、リノベーションならではの面白さです。
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デザインのポイント

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増築部分であるガラスのヴォールト屋根(カマボコ形の屋根)は林立する鉄骨柱で支えられています。まず、鉄骨の黒と建物のレンガの黄土色との対比が美しい。しかも新旧の違いが明確なので、これが歴史的建築のリノベーションであると一目で分かります。
 
鉄骨は空間に緊張感を与えて客を引き寄せる魅力を生み出す一方、自己主張が強すぎて古い建物の存在感を損なうことがないよう慎重な配慮がなされています。例えば、柱は単純な円柱ではなく何本かの細い柱を束ねた姿をしています。ただし、あくまでも見かけ上であって実際は一体的な柱と思われます。柱の分節には、一本の単純な円柱よりも細くスマートに見せる効果があります。ゴシック様式で線条要素と呼ばれる手法です。
 
このように古い建物を尊重しながら新たな価値を加えるそのバランスの巧さに感心します。古い街並みが残っていてリノベーションが普通の設計業務であるヨーロッパにおいては、建築家はこれくらいできて当然なのでしょう。日本はこれからリノベーションが普及する段階なので、本場の事例は勉強になります。
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観光スポットとしてもおすすめ

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観光名所が軒を連ねるこのテムズ川一帯(プール オブ ロンドンという)の中では、ヘイズ ガレリアはやや地味な存在ですが、なかなか魅力的な空間なので建築ファンならずともぜひ訪れて欲しいと思います。川沿いはテムズ パスと呼ばれる公共の歩道が整備されており、プール オブ ロンドンの名所を巡り歩いた後、ヘイズ ガレリアで休憩するプランはいかがでしょうか。夜もロマンチックな雰囲気でおすすめです。
名称

ヘイズ ガレリア(ヘイズ ギャレリアとも)

Hay's Galleria

設計者

トゥイッグ ブラウン アーキテクツ(改修)

Twigg Brown Architects

波止場として竣工したときの設計者は不明

所在地

ロンドン

London Bridge City, London SE1

用途

竣工時:波止場・倉庫

改修後:複合商業施設(店舗・事務所・集合住宅)

竣工

波止場:1856年、改修:1986年

構造

屋根は鉄骨造、建物はレンガ造と思われる

交通

鉄道:地下鉄 London Bridge 駅下車 徒歩5分。または Monument 駅下車、ロンドンブリッジを渡る、徒歩10分。


公開日:2008年6月19日、最終更新日:2012年7月28日 文章を一部修正してスライドショーを追加、撮影時期:2004年9月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)

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