ロイズ オブ ロンドン00
ロイズ オブ ロンドン ( 1/5 )
Lloyd's of London Insurance Market and Offices
ロンドン、 リチャード ロジャース、 1986年
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ロイズの起源

17世紀後半,ロンドンでロイドなる人物が経営するコーヒーハウスには、貿易商や船員の客がよく集まっていました。そこで彼は店内で海事ニュースを提供するようになり、店は保険引受業者の取引場所になります。ロイドの死後もロイズコーヒーハウスとして取引場所は存続し、その後コーヒーハウスではなくなったもののロイズの名は引き継がれました。
 
これが世界有数の保険組合ロイズの起源です。一軒のコーヒー店から始まった保険取引市場は、20世紀後半、ロンドンの金融街シティの中心にそびえ立つハイテクビルディングに発展しました。歴史と伝統の街ロンドンといえども、金融街シティには鉄とガラスとコンクリートでできたオフィスビルも決して少なくないのですが、ロイズのビルはさすがに異彩を放っています。

設計者

設計はリチャード ロジャース。彼がレンゾ ピアノと組んで設計したポンピドー センター(フランス パリ,1977)も、配管や設備類が外部に露出した大胆な外観で世界を驚かせました。このロイズ オブ ロンドンやポンピドー センターに代表される過剰なまでに機械的なデザインは、現代建築の分野でハイテックと呼ばれています。

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チャールズ皇太子の批判

大の現代建築嫌いで有名なイギリス王室のチャールズ皇太子は、ロイズ オブ ロンドンを「石油コンビナートみたいだ」と批判したそうです。確かに、何本もの配管が露出した外観をこの建物のことを知らない人に見せてオフィスビルだと説明してもなかなか信じてもらえないでしょう。

設備系の耐用年数の問題

建物を構成する部材の内、設備系は構造材に比べると耐用年数が短く、ある程度の年数が過ぎたら更新の必要が生じます。この設備系を外部に露出するメリットは、通常業務が行われている内部空間にほとんど影響を与えることなく更新作業ができる点にあります。
 
もっとも、設備系を外回りに配置しつつ目立たないようにデザインすることはやろうと思えばおそらくできるはずであり、実用的な理由だけではこのような外観に至った説明としては不十分です。

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過剰なデザインの意図

過剰なまでにメカニズムを強調した外観は実用性を突き抜けてもはや装飾の域に達しています。ですが、さらに注意深く観察したならば、このデザインには、建築家の個性の産物というレベルに収まらない、より大きな意味が込められていると気付くでしょう。そのことに気付けば、ロイズ オブ ロンドンこそは“イギリス建築”の伝統を正しく継承した建築物なのだと納得できるはずです。
 
しかし、縦横に駆けめぐる配管だとか外部階段の腰壁のステンレスパネルの輝き、ガラスボックスのエレベーターなどのメカニカルな部分につい目を奪われてしまっては、なかなかこの建物の本質には気が付かないかも知れません。そのために誤解を受けている面はあるでしょう。かくいう私もこの目で見るまでは思い違いをしていました。

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