【02】
街並みに異物を挿入する系譜
ウィーンの王宮前にアドルフ ロースの設計で建てられたロース ハウス(1910年)は、市民の間でたいへんな物議を醸しました。このときは立面に装飾が無いことが問題視されたのですが、現代のヨーロッパでは、歴史的な街並みに建築家があえて異形の建築を挿入することがあります。オーストリアでその「伝統」を受け継ぐ建築家といえばハンス ホラインやコープ ヒンメルブラウ、フンデルトヴァッサー、そしてギュンター ドメニクの名前が挙げられます。
ウィーンの街並みに突如出現した怪獣のような奇怪な建物はなんと銀行の支店。設計した建築家もすごいけど、このデザインを承認した施主はもっとすごいですね。地元の人々も決して最初からこの建物を受け入れたわけではなく、さすがに建設当初は強い反発があったそうです。もちろん設計者も施主も反発を受けることは想定していたでしょう。
【03】
デザインのモチーフ
建築ガイドブックによれば、この独特な外観は、設計者の故郷であるオーストリア南部の山岳地帯の風景を参照したとのことですが、この話はあまりピンと来ません。岩山などよりもウロコや甲殻類といった生物に例えた方が似合っています。
エントランスの庇は外壁というより甲羅がめくれたかのよう。ここから出入りするのは怪獣の体内に入ることを感じさせて、面白いのですがいささか悪趣味な気がしないでもありません。
【04】
体内のような内部空間
排水装置をカムフラージュしている巨大な手のオブジェは、設計者自身の手がモデルとか。本人はいたって大まじめなのでしょうけど、第三者がこんなインテリアを見ると、引いてしまうか苦笑するか反応に戸惑います。
ある意味、異様な雰囲気とお堅い銀行とのギャップこそこの建築の最大の魅力なのかも知れません。銀行業務は普通に行われていたので、行員やお客さんはもう慣れたのでしょうね。
名称 | ウィーン中央銀行ファヴォリーテン支店 Bank Branch Favoriten |
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設計者 | ギュンター ドメニク Gunther Domenig |
所在地 | ウィーン10区 |
用途 | 銀行 |
竣工 | 1979年 |
構造 | 未確認 |
交通 | 鉄道:地下鉄U1号線 Keplerplatz 駅下車 |
備考 | 銀行側も見学者に慣れているのか、中に入っても特に何も言われませんでした。とはいえ、銀行ですので内部見学の際は迷惑を掛けないようご注意下さい。 |
参考文献
- 『a+u』1980年4月号、新建築社
- 『ヨーロッパ建築案内2』307頁、淵上正幸、TOTO出版
- 『世界の建築・街並みガイド5』33頁、エクスナレッジ
- 『建築文化』2002年2月号 特集:ウィーン20世紀建築MAP、彰国社
公開日:2002年9月8日、最終更新日:2011年6月19日、撮影時期:2002年1月
カメラ:Nikon COOLPIX 775(Photoshopで修正)