【02】
橋で結ばれた天草諸島
熊本県の西に浮かぶ天草諸島は、上島・下島という二つの大きな島と中小の島々から成り立ち、内海の有明海・八代海と外海の東シナ海に囲まれています。主な島々は橋でつながっていて、九州本土から天草諸島の最南端まで車で行くことができます。特に天草五橋と呼ばれる橋梁群は有名です。そして20世紀末、天草最南端の牛深港に新たな橋 ─ 牛深ハイヤ大橋が架けられました。
ハイヤとは
ちなみに「ハイヤ」は牛深の伝統民謡「牛深ハイヤ節」から付けられたものです。海産物の豊かな産地であった牛深港は、江戸時代から船舶の風待ちの港として栄え、酒宴の席でハイヤ節がよく唄われていました。これが船乗りを通じて全国に広がったため、牛深ハイヤ節は「おけさ」や「甚句」といったハイヤ系民謡のルーツと言われています。
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国際的な設計チーム
橋の設計は、パリのポンピドゥ センターや関西国際空港などを手掛けたフランスの建築家レンゾ ピアノ氏や、彼の事務所出身の岡部憲明氏、シドニー オペラハウスを設計したピーター ライス氏などが担当しました。地方漁港の橋の設計にこのように国際的なメンバーが参加したのは、これが「くまもとアートポリス」参加事業だからです。
一本の線
この歴史ある風光明媚な漁港に橋を架けるに際し、レンゾ ピアノ氏は橋の構造形式としては最も基本的な桁橋を採用。一本の線を景観に挿入し、その線をいかに美しく見せるかについて徹底的に追求しました。
要は、桁梁を薄くシャープに見せることに尽きるわけですが、その工夫のひとつが桁梁底部の曲面化、そして最大のポイントがフラップ(風除板)の存在です。
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フラップの役割
単純な桁橋でスパンが大きくなれば、桁梁の側面はどうしても太くて野暮ったく見えるものです。そこでまず底部を曲面にして接線方向にブラケットを伸ばし、先端に微妙なカーブを描くフラップを付けています。これで全体的な印象がシャープになって軽やかに見えているわけです。
うしぶか海彩館にあるフラップのサンプル
このフラップは、夜に照明を当てて間接照明とすることで、遠目には帯状に白く輝き湾内に光のラインが浮かぶ効果もあります。
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ループ橋の評価
ただし、交差点の信号機のデザインはもう少し工夫する余地があったのではないかと思います。
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【07】
この橋は本当に必要か?
左図の通り、ハイヤ大橋は基本的に島と島を結ぶものではなく、牛深港の両端を結ぶバイパス道路です。では、牛深町に大規模な橋を架けてバイパスを設ける程の交通量があるかというと、とてもそうは思えません。実際、車はほとんど走っていませんでした。
一応、分岐したループ橋が対岸の下須島(げすじま)とつながっていますが、既に別の橋が架かっており、ここも2本目が必要な程の交通量はありません。
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批評の難しさ
こうした疑問は土木関係者も認識しているようで、土木学会デザイン賞の講評を読むと、橋の美しさと必要性の間でレビュアーが悩んでいる様子が分かります。
おそらく似たような橋は全国の漁港にあるはずです。広島県鞆の浦の架橋問題もそのひとつでしょう。
「無駄な公共投資」との批判は土木・建設業界で常に言われていますが、完成したものがあまりにも美しく格好いい場合、それをどう評価すべきか。建設の背景を保留して単体で評価することは妥当か否か。とりわけ建築系サイトにレビューを書いている筆者には難しい問題です。
名称 | 牛深ハイヤ大橋 Ushibuka Haiya-Bridge |
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設計者 | レンゾ ピアノ / レンゾ ピアノ ビルディング ワークショップ Renzo Piano / Renzo Piano Building Workshop 岡部憲明 / 岡部憲明アーキテクチャーネットワーク OKABE Noriaki / Noriaki Okabe Architecture Network ピーター ライス / アラップ Peter Rice / ARUP 伊藤整一 / 株式会社マエダ ITO Seiichi / Maeda |
所在地 | 熊本県天草市牛深町 |
用途 | 橋 |
竣工 | 1997(平成9)年 |
構造・規模 | 構造:鉄骨造+鉄筋コンクリート造 長さ:883m、幅:13.6m |
交通 | 車:九州自動車道 松橋IC > 三角港 > 橋を渡って天草を南下 > 牛深町(約2時間30分) |
備考 | くまもとアートポリス参加事業 1997年度土木学会田中賞、土木学会デザイン賞2001最優秀賞 |
上から、うしぶか海彩館、牛深ハイヤ大橋
リンク
- 熊本県 > くまもとアートポリス > くまもとアートポリス参加プロジェクト一覧 > 牛深ハイヤ大橋
- 土木学会 > 土木学会デザイン賞 > 土木学会デザイン賞2001 > 牛深ハイヤ大橋
- 九州の橋 > 天草の橋 > 牛深ハイヤ大橋
- レンゾ・ピアノ、岡部憲明、ピーター・ライス ウィキペディア
参考文献
- 『新建築』1997年11月号、新建築社
- 『JA』10号 特集:くまもとアートポリス 建築の公共性、新建築社
- 『九州・沖縄を歩こう! 建築グルメマップ2[九州・沖縄編]』314頁、エクスナレッジ
- 『建築マップ九州/沖縄』258頁、TOTO出版
公開日:2003年7月20日、最終更新日:2011年7月9日、撮影時期:2002年11月
カメラ:Nikon COOLPIX775(Photoshopで修正)