旧唐津銀行本店は2008〜2011(平成20〜23)年にかけて大幅な改修工事が行われ、外部・内部ともきれいになりました。ただし、本稿は工事前の2006年10月に筆者が現地を訪れたときに基づいています。現状とは違いがあることを予めご理解ください。
【02】
建物の概要
玄界灘に面する佐賀県北部の主要都市である唐津市は、江戸時代は唐津藩の城下町として、近代は唐津炭田の石炭輸出港として栄えた街です。その唐津城に近い市街地の一画にかつて唐津銀行の本店だった建物はあります。銀行が近代建築として残っているケースはさほど珍しくありませんが、銀行建築ではギリシャ・ローマ様式が採用されることが比較的多いのに対して、この建物ではレンガタイルに白いボーダーで装飾をアクセントを付けるなど、金融機関にしてはずいぶん華やかなデザインがなされています。
辰野金吾との関係
近代建築に詳しい人なら辰野式に似ているなと気付くでしょうが、それもそのはずで設計者の田中実は辰野金吾 註1 の弟子であり、辰野自身も監修という形で設計に関与しました。なぜ辰野のような大御所がこの建物に関わったかというと彼は唐津の出身なのです。
【03】
建物の歴史
レンガの外壁は実際はタイル貼り。レンガとボーダーの組み合わせが辰野式の特徴ですが、辰野本人の作に比べて白い部分が多いのは田中実の考えでしょうか。
【04】
内部空間
写真04は保存整備工事が始まる前に撮影した内部の様子。コリント式の柱に往時の繁栄を感じます。右の写真は2階の応接室です。
余談ですが、建築家の曽禰達蔵 註2 と村野藤吾 註3 も唐津の出身で、2階には辰野も含めて3人の業績を紹介するギャラリーがありました。
建物名 | 旧唐津銀行本店 Karatsu Bank Head Office |
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設計者 | 田中実 / 清水組(現・清水建設) + 辰野金吾(監修) TANAKA Minoru + TATSUNO Kingo |
所在地 | 佐賀県唐津市本町1513-15 |
用途 | 竣工時:銀行、現在:多目的ホール |
竣工 | 1912(明治45)年 |
構造・規模 | 構造:木造 + 組積造 階数:地下1階 地上2階、敷地面積:1,431.73m2 建築面積:314m2、延床面積:906.99m2 |
交通 | 鉄道:唐津駅下車 徒歩約10分 |
備考 | 国指定重要文化財 |
補註
- 辰野金吾(たつの きんご)、1854〜1919(嘉永7〜大正8)年。唐津藩士の子として生まれる。工部省工学寮(現在の東京大学工学部)に一期生で入学。首席で卒業し、英国留学を経て母校の教授に就任。その後、設計事務所を開設。代表作は東京駅や日本銀行本店など多数。近代日本の建築界の礎を築いた。
- 曽禰達蔵(そね たつぞう)、1853〜1937(嘉永5〜昭和12)年。唐津藩士の子として江戸に生まれる。工部省工学寮の一期生で辰野金吾と同期。工部大学校助教授、海軍呉鎮守府を経て三菱に入社。明治期における東京丸の内レンガ造オフィス街の建設に携わる。
- 村野藤吾(むらの とうご)、1891〜1984(明治24〜昭和59)年。唐津市の船問屋の家に生まれる。八幡製鉄所、軍務、早稲田大学を経て大阪の渡辺節建築事務所に入所。後に独立する。住宅からオフィス、公共施設まで幅広く手がけた。
リンク
- 旧唐津銀行
- 唐津観光協会 > 唐津んもんだより 特集:唐津銀行
- 佐賀新聞 > 旧唐津銀行の保存整備工事が完了 内覧会も、中心市街地活性化の新拠点に 旧唐津銀行オープン
- 西日本新聞 > 旅・観光 > 九州・山口の産業遺産・近代化遺産 > 佐賀県 > 旧唐津銀行本店
- 清水建設 シミズのしごと > しみずアーカイブズ > 【第23回】歴史に残る建造物(その11)旧唐津銀行本店
- BS日テレ 知られざる百年遺産 わが町の建築物語 > 放送内容 > 第57回放送 辰野式100年建築「旧唐津銀行本店」の物語
参考文献
- 『九州遺産 近現代遺産編101』244~245頁、砂田光紀、弦書房
- 『九州・沖縄を歩こう! 建築グルメマップ2 九州・沖縄編』101頁、宮本和義 + 建築知識編集部、エクスナレッジ
公開日:2009年9月23日、最終更新日:2013年4月13日 「はじめに」など文章の一部と写真を修整し、スライドショーを追加
撮影時期:2006年10月、カメラ:Nikon D50(Photoshopで修正)