【02】
個性的な銀行建築
その昔、明治から戦後初期の頃までの銀行建築といえば、信用や格式を表す意味で古典様式の重厚なデザインが好まれたものでしたが、最近の銀行の本店は、大半が普通のオフィスビルと同じガラスのカーテンウォールのビルばかりが目立ちます。
ところが昭和の一時期、古典様式でも合理主義でもない個性的な銀行建築が北部九州に相次いで出現したことがありました。それが黒川紀章氏が設計した福岡銀行本店(福岡市、1975・S50)、白井晟一氏による親和銀行本店(長崎県佐世保市、1967・S42)、そして磯崎新氏の福岡相互銀行本店(現 西日本シティ銀行、福岡市、1971・S46)です。
いずれも石材を惜しげもなく使うなど、今ではなかなかお目にかかれない贅沢な建築であり、銀行家が建築家のパトロン的役割を担った幸福な時代の産物といえるでしょう。
【03】
ポストモダン建築の良作
全面にインド砂岩を貼った赤い姿がオフィス街に異色を放っていながらも決して奇抜ではありません。ポストモダン建築といえばバブル時代の派手なデザインを思い浮かべる人が多いでしょうが、バブル以前には良質な建築が多い。この銀行はそのひとつです。
石材の使用や基壇のような低層部は、銀行の本店として、そして博多駅前という都市の玄関口に相応しい風格が漂います。一方で、外壁の上端(パラペット)に何も意匠を施していない点は三層構成の定石から外れていますし、オフィスビルにしては奥行きが浅いボリュームはまるでハードカバーの本のよう。実は古典様式から現代建築まで深い造詣があってこそできるデザインです。
【04】
駅前広場との関係
大屋根の下を行き交ったり待ち合わせをしたり、何かのイベントが行われたりするとき、広場の背後にそびえる赤い建物の存在は人々に強い印象を残すはずです。都市を象徴する広場に相応しい格式をこの建築は備えています。
【05】
石材の使い方の上手さ
石の使い方の上手さもこの建築の見所のひとつです。そもそも銀行の本店に赤い砂岩を使うことからして大胆ですし、壁面全体に石を貼りながら開口部の配置と基壇の存在で単調に陥ることを避け、後述する低層部では赤い御影石を使い分けるなど、巧みな石の使い方にはさすが磯崎さんだと感心します。彼に並ぶのは白井晟一氏くらいでしょうか。
【06】
エントランスと小さな広場
磯崎氏の初期作には「切断」のイメージがよく登場しますが(例えば 旧大分県立中央図書館)、エントランス前広場の上に飛び出している巨大な「梁」もその表現です。
【07】
デフォルメされた柱・梁
【08】
デザインの強度
名称 | 西日本シティ銀行本店 Head Office of Nishi-nippon City Bank 竣工時は福岡相互銀行、その後、福岡シティ銀行を経て現在の銀行名に |
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設計者 | 磯崎新 / 磯崎新アトリエ ISOZAKI Arata / Arata Isozaki & Associates |
所在地 | 福岡市博多区博多駅前3-1-1 |
用途 | 銀行 |
竣工 | 1971(昭和46)年 |
構造 | 鉄骨鉄筋コンクリート造 |
交通 | 鉄道:JR博多駅・地下鉄博多駅 下車 |
関連サイト
- 何苦礎 > 興産一万人 > (46)磯崎新さんと出会う、(47)電算機内蔵の新本店、(48)博多駅前のシンボル
- 磯崎新 ウィキペディア
参考文献
- 『現代の建築家 磯崎新』SD編集部、鹿島出版会
- 『建築グルメマップ2 九州・沖縄を歩こう!』15頁、エクスナレッジ
- 『建築MAP九州/沖縄』27頁、TOTO出版
公開日:2003年5月17日、最終更新日:2013年5月13日 ライトアップの写真を差し替え、撮影時期:2004年・2011年7月・2013年5月
カメラ:Nikon D50、Canon PowerShoto S90、Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)