【02】
孤高の建築家 白井晟一の代表作
「孤高の・異端の」と称される建築家の筆頭といえば白井晟一でしょう。戦前のベルリンで哲学者のヤスパースに師事したという異色の経歴の持ち主で、モダニズムとは一線を画した独自の路線を歩み続けました。その彼の代表作とされるのが長崎県佐世保市の親和銀行本店です。この建築は第1〜3期に分かれていて、第1・2期で銀行の本店部分、第3期でコンピューター棟が建てられました。
写真02は1期工事の本店部分で、ご覧の通り商店街のアーケードに立面の上半分が隠れています。アーケードは2期工事の完成時には既にあったといわれています。普通に考えれば見えないのは残念な状態ですが、この場合は見えないことで建築とそれを設計した建築家の神秘性が増しているとの見方ができるかも知れません。
【03】
早くに出現したポストモダン建築
2期部分は閉鎖的なボリュームが片持ちで突き出ています。これは白井が1955(昭和30)年に発表した原爆堂計画案がベースにあるとされています。ただし、竣工当時はトラバーチン(大理石)貼でしたが、現在は残念ながら金属パネルに覆われています。
壁に石を貼るのは石造建築の模倣なわけですが、そもそも石を積み重ねてつくる石造建築に片持ち構造はあり得ません。留学時代に本場のゴシック建築を見て回った白井がそれを知らないはずはなく、あえて定石を破っているのです。
ポストモダン的といえますが、白井にそんな意識はありませんし、完成度の高さは他のポストモダン建築を寄せ付けない孤高の極みに達しています。これに匹敵しうるのは磯崎新の西日本シティ銀行本店くらいでしょう。
【04】
懐霄館の不思議なデザイン
微妙なカーブを描く壁面に中央のスリット、洞窟のようなエントランスとその上の丸窓、頂部の緩い勾配屋根。これら脈絡のない要素が全体としては調和を保っているとは、驚くべきデザイン力です。
【05】
不可視性から生じる神秘性
なお、下半分が無造作なデザインなのは、もともと懐霄館は裏山を切り崩して建てていて、竣工当時は裏山の一部が残っていたのを後にすべて崩し、隠れていた部分が露出してしまったためです。(文中敬称略)
名称 | 親和銀行本店・懐霄館 Head Office of Shinwa Bank and Kaisyokan |
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設計者 | 白井晟一 / 白井晟一研究所 SHIRAI Seiichi / Shirai Seiichi Architectural Institute |
所在地 | 長崎県佐世保市島瀬町10-12 |
用途 | 銀行 |
竣工 | 第1期:1967(昭和42)年、第2期:1969(昭和44)年 第3期(懐霄館):1975(昭和50)年 |
構造・規模 | 本店 構造:鉄筋コンクリート造 階数:地上6階、塔屋2階、建築面積:2,069m2、延床面積:9,384m2 懐霄館 構造:鉄骨鉄筋コンクリート造 階数:地上11階、地下2階、建築面積:730m2、延床面積:9,000m2 |
交通 | 鉄道:松浦鉄道 佐世保中央駅下車 |
備考 | DOCOMOMO JAPAN No.092 1968年日本建築学会賞、1971年建築業協会賞(BCS賞) |
補注
- 白井は親和銀行の本店・懐霄館の他に大波止支店(長崎市五島町4-16、現存)と東京支店(現存せず)も設計している。
- 近くの玉屋デパートの屋上から親和銀行本店が俯瞰で一望できる。
- 懐霄館の内部は贅を尽くした空間らしい。親和銀行に正式に申し込めば内部の見学は可能。ただし撮影は禁止。
リンク
- 建築環境デザインコンペティション > LIVE ENERGY > 現代建築考 > 親和銀行本店
- いろいろずかん > 親和銀行本店・懐霄館 / 白井晟一
- 建築図鑑 II > 親和銀行本店 懐霄館(かいしょうかん)
- passerby > 白井晟一と親和銀行:モニュメントとしての建築、パトロンとしての銀行
- ジャージの王様 > 割り切れない奇妙さ[たてもの]
- 建築エコノミスト森山のブログ > タンゲジャパンに立ち塞がった男 白井晟一の伝説その1・その2・その3・その4
- 白井晟一 ウィキペディア
参考文献
- 『ポストモダン建築巡礼』磯達雄・宮沢洋、日経BP社
- 『再読/日本のモダンアーキテクチャー』モダニズム・ジャパン研究会編、彰国社
- 『現代日本建築家全集9 白井晟一』三一書房
- 『建築ガイドブック 西日本編』176〜177頁、新建築社
- 『建築グルメマップ2 九州・沖縄を歩こう!』128頁、エクスナレッジ
- 『建築MAP九州/沖縄』148頁、TOTO出版
公開日:2003年5月17日、最終更新日:2012年1月7日 写真を差し替え、撮影時期:2011年9月
カメラ:Nikon COOLPIX775(Photoshopで修正)