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熊本県立装飾古墳館 ( 1/3 )
Kumamoto Prefectural Museum of Decorated Tombs
熊本県山鹿市、安藤忠雄、1992(平成4)年
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装飾古墳とは

装飾古墳とは内部に壁画や彫刻などの装飾が施された古墳をいい、おおむね5世紀中頃から7世紀前半にかけて築かれました。日本各地に点在しますが、特に熊本県をはじめとする九州地方に集中しています。

建築概要

熊本県立装飾古墳館は、熊本県北部の岩原(いわばる)古墳群の一角にある博物館で、「くまもとアートポリス」の一環として建てられました。設計は安藤忠雄氏。彼の公共建築では初期の仕事に当たります。同館は、装飾古墳や古代文化に関する展示を行う本館(展示棟)と、体験学習を行う別館(実習棟)の2棟で構成されますが、本稿では本館を中心に紹介します。

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アプローチ

装飾古墳館は建物本体はもちろんのことランドスケープデザインも実に秀逸です。
 
施設の駐車場に着いても建物は直接見えず、車を降りて木立の中を歩くと、やがて斜面の上に建物の側面が姿を現します。打ち放しコンクリートの壁とガラスボックスが載った塔屋という安藤氏らしいシンプルな建物が、自然の中に横たわっています。壁には窓ひとつありませんが、拒絶するといった感じではなく、むしろ壁の向こうには何があるのだろうという期待感が高まります。
 
この壁を回り込んだところが写真01で、広場と大階段があります。広場は壁と階段に囲まれて周囲の様子は見えず、ここでも階段の上では何が見えるのかとの期待を抱かせます。

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屋上の眺め

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階段で屋上に上ると視界が一気に広がります。遠くにいくつも並んでいる土饅頭のような地形が古墳群です。

円形ヴォイドの意味

屋上に上がった来場者は、次は古墳群を見ながら円形スロープを下りていくことになります。大きな円形ヴォイドは安藤氏が好んで使う空間ですが、ここでは古墳の形に呼応する意味も込められています。

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スロープの役割

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来場者は外に古墳群を、内に建物を見ながらスロープを下る過程で、これから内部で体験する古代の世界に意識が向かうことになります。さらに「下る」という行為には、地中に埋もれた古墳に入るイメージや、時代を遡るイメージを印象づける意味もあります。
 
円形ヴォイドの中心には直線上のスロープがあり、来場者は中に入るともう一度同じ行為を繰り返して、このイメージはさらに強調されます。
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ランドスケープデザインのお手本

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円形スロープをぐるりと回った先はメインエントランス。延々と続いたアプローチはようやく終わります。
 
駐車場からエントランスまでのアプローチ各部分における、視線・視界のコントロールや行為に込められた意味などは、ランドスケープデザインのお手本と言っていいでしょう。

装飾古墳館の重要性

安藤氏の活動の中心は関西から東側で、九州ではわずかしか仕事をされていません。また、ランドスケープデザインでは北海道の「水の教会」がたいへん有名です。そのような事情に加え、交通が不便で行きにくいためか、熊本県立装飾古墳館はあまり注目されていない気がします。
 
しかしながら、円形ヴォイドやスロープ、ランドスケープとの一体性といった安藤氏の主なデザインボキャブラリーが、公共建築において実現した初期の事例のひとつのはずです。その意味で、注目すべき建築といえます。

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