【02】
ランドスケープと一体化した葬斎場
敷地は中津市郊外の田園地帯で、葬斎場の周囲は公園に整備されています。この公園のデザインも素晴らしく、建築とランドスケープが一体となった空間を体感できます。
また、公園にはたまたま発見された古墳も保存されていて、つまりは古代から現代まで続く葬送の空間ということになります。火葬場は迷惑施設として敬遠される場合が多いのですが、「この場所こそふさわしい」と納得できる希有な事例といえるでしょう。
【03】
モダニズムと素材の絶妙なバランス
この葬斎場では、レンガやコールテン鋼といった粗面のテクスチャーが積極的に用いられており、素材の使い方の点で槙文彦氏のデザインにおいて重要な位置にある建築です。
アプローチでまず目にするのは八角形のボリュームと独立した壁。抽象的な形態は現代建築そのものですが、レンガを貼っていることでモダニズム色が中和されて歴史的建築物のような風格が漂います。本来のレンガ造では手前に傾斜する壁は構造的にあり得ませんが、変則的なデザインをしながら不自然さをまったく感じません。
また、素材に赤レンガを選ばない、つまり安易な大衆受けには走らないところも槙さんらしい。このレンガはイギリスのライチェスターシャー地方のものとのこと。
【04】
【05】 車寄せ
技巧的な車寄せの庇
動線計画的には、火葬だけか葬儀もここで行うかによって、車寄せから左右に分かれることになります。葬儀は別の場所で行って火葬だけの場合は、棺と遺族は前庭の左手の通路(写真04の左)を通って火葬棟のエントランスポーチ(次頁の写真11)に向かいます。
一方、葬儀もここで行う場合は車寄せ右奥の開口部を抜けて斎場に向かいます。
【06】
通路と公園の距離感
葬斎場は市街地から離れているので、純粋に公園や古墳が目的で訪れる人は少ないと思いますが、もしいたならば、葬儀に向かう様子を目にすることになります。もっとも、公園のメインスペースや古墳群は通路と適度に離れており、会話や表情が分かるほどではありません。この距離感が絶妙です。
【07】
薄暗い斎場
いずれの開口部も光の量が抑制されていて斎場はかなり薄暗い。まるで宗教建築が成立する以前の、洞窟に設けられた原始的な祈りの空間を思わせます。とはいえ、ディテールは相当に繊細なのです。
【08】
待合ロビー
また、車寄・斎場・待合と火葬・収骨を行う区画(火葬棟)との間には若干のレベル差が設けられています(写真04左の通路もスロープになっている)。これは死者と直接的に決別するに際して意識を集中するための仕掛けです。