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アイタム モート ( 1/3 )
Ightham Mote
ケント州、1340年頃〜
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【11】西棟
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【12】東棟

アイタム モートの価値

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アイタム モートは、イギリス南東部のケント州にある中世のマナーハウス(荘園領主の館)です。14世紀中頃に最初の棟が建てられた後、何度も増改築を繰り返して現在の姿になりました。保存状態が良好な上、増改築ごとにその時代の建築的な特徴が表れているため、建築史的価値が高いとされています。ただし、私は専門家ではないので、本稿では建物の外観や庭園を中心に述べていきます。
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現地案内板から引用(方位を記入)

建設の経緯

北棟

最初の棟の建設から今の姿に至る経緯をおおまかに説明すると、まず敷地の東寄りに建物(東棟)ができると、15世紀中頃に西棟が建てられて中庭を挟んで2棟が平行に並びます。そして、南棟の建設でコの字型に、最後に北棟が完成して現在のロの字型になります。
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【13】西棟

戦乱時代の名残

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塔屋

建物を取り囲む堀は竣工当初から設けられているもの。防衛を重視した造りは戦乱の時代の名残です。同じくイングランド南東部にあって建築マップで紹介している ボディアム城が廃墟と化したことに比べると、お城と呼ぶには小さなこの建物がよくぞ残ったものだと思います。ちなみにモート(mote)とは堀の意味。
 
前述した通り西棟は比較的初期の建設ですが、塔屋はさらに後年の増築、また2階部分も後に建て替えられています。堀には3本の橋が架かっていて、西の塔屋の橋がメインエントランスです。
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【14】南棟

魅力的な立面

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度重なる増改築によって立面は複雑化し、多様な表情が生じました。立面ごとにまるで別の建物のようで見る者を飽きさせません。それでいて全体的に違和感がないのは、その時代ごとの様式が全体の調和を保っていることと、最後の増築から数百年を経て風格を帯びているからでしょう。
 
では西の橋を渡って中庭に入ります。

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【15】

集落のような中庭空間

中庭は外側以上に多様な立面が表れています。当初はわずかな部屋しかなかった住宅は、増築の度に拡大し、主人一家や使用人の住居といったプライベートゾーン、ホール・ギャラリー・チャペルなどのパブリックゾーン、そして厨房や倉庫など機能が充実していきました。中庭に立つと、何軒もの建物に囲まれた集落の広場のような印象を受けます。
 
時代が下り世の中が安定してくると、建物のデザインは次第に防御性よりも居住性やステイタスを重視するようになります。例えば、写真15の右側は最も古い部分である東棟ですが、その2階の壁面を飾る大きな窓は後年に設置されたものです。最後に建てられた部分である北棟(写真左側)の1階はギャラリー。2階も初期はギャラリーだったようですが、後にチャペルに改修されました。

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【16】

凝縮された箱庭的世界

このように、イギリスの貴族階級の大邸宅(カントリーハウス)に比べると小規模ではありますが、アイタム モートはその中に日常生活と社会的な機能が詰め込まれています。しかも、堀で囲まれた中庭型なので独立性や閉鎖性が高い。集落のミニチュアというか、箱庭のような空間に惹き付けられます。
 
写真16の右側が北棟、左側が西棟です。

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【17】

建物の所有者

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建物の所有者は何度も変わっています。つまり、同じ一族がコツコツと手を加えたわけではなく、主(あるじ)が変わるごとに自分達が使いやすいように改造していったと捉えた方がよいでしょう。
 
1953年に所有者となったあるアメリカ人は、修復工事を行った上でアイタム モートをナショナルトラスト 註1 に譲渡。そして現在は同団体が維持・管理しながら一般に公開しています。
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