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パディントン駅 ( 1/2 )
Paddington Station
ロンドン、I.K. ブルネル + M.D.ワイアット + N. グリムショー、1854・1999年
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【02】

ヨーロッパらしい駅舎

イギリスの空の玄関口、ヒースロー空港からロンドンに向かう場合、地下鉄やバス、旅行会社の送迎車といった交通手段もありますが、いちばん速くて分かりやすいのはヒースロー エクスプレスです。この特急列車は空港とロンドンを15~20分程度で結んでいます。その終点であるパディントン駅に降り立つと「ああ、ヨーロッパに来たんだなあ」と実感することでしょう。
 
ヨーロッパの都市では複数のターミナル駅が市街地を取り囲むような形で建っています。特にロンドンはいち早く鉄道が開業したイギリスにおける鉄道網の中心なだけに、壮麗なゴシック様式のステーションホテルを備えたセント パンクラス駅リバプール ストリート駅、『ハリー ポッター』で有名になったキングズ クロス駅など特徴的な駅がいくつもあり、駅舎巡りをしてみるのも一興です。

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【03】

広大なヴォールト空間

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もっとも、中には後年の増改築で大空間が分断されて、空間構成が分かりにくい駅もあったりします。その点、パディントン駅は古い建築ながら他の駅に比べてコンコース上の構築物が少なくて見通しがよいので、ヴォールト構造(カマボコ屋根)の内部空間をじっくりと見学できます。
 
線路が行き止まりになっている頭端式の駅は日本ではあまり目にしません。ですから、空港よりむしろこの種の駅の方が外国の雰囲気を感じますね。さらに、スパン(柱間)の広い大空間によって建築と列車と乗客の一体感が生じています。旅情をかき立てる演出効果は抜群です。
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【04】

日本のホームも充実を

頭端式でなくともホーム上屋を大スパンで架構することは可能ですが、これまでの日本ではこのような空間の駅は少なく、私鉄の頭端式ターミナル駅に数例がある程度でした。しかし1990年代から2000年代以降、駅の新設や改修で徐々に採用されるようになり、大阪駅には広大な空間が完成しました。鉄道会社としては駅ビルの商業施設化や駅舎のバリアフリー・安全対策の方が優先的かもしれませんが、魅力的なホーム空間の整備も平行して進めていただきたいところです。

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設計者について

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話をパディントン駅に戻すと、グレート ウェスタン鉄道のターミナル駅としてパディントン駅が開業したのは1838年のこと。現在位置に駅舎ができたのは1854年。設計は同鉄道の技術長でイギリスを代表するエンジニアであるイザムバード キングダム ブルネル 註1 と建築家のマシュー ディグビー ワイアットです。
 
また、1999年のリニューアルによって、コンコース上の構築物の整理、屋根の補修、ヴォールトの妻壁にかつてあった装飾(トレーサリー)の復活(写真05)、商業施設の増築(写真06・07)などの工事が行われています。その担当はニコラス グリムショー。
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【06】

見通しの確保

商業施設は三層の吹き抜けにガラス張りのフラットな鉄骨屋根が架かる空間です。下の画像のように、ホーム/コンコースと商業エリアとの境界はガラスの壁(写真左側)で仕切られていて、食事の席からホームの様子を眺めることができます。

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【07】

商業施設のデザイン

商業施設にはメタリックでハイテク風のデザインがなされていますが、それでいて突出しているわけではありません。新旧の空間を対比させつつ互いに引き立て合うことで両者が共存しています。さすがにヨーロッパの建築家はその辺のバランスの取り方が上手いものです。

旅行のアドバイス

ちなみに、ロンドンで宿泊するならパディントン駅周辺のホテルをお勧めします。もし地下鉄やバスが事故やストで止まってもヒースロー エクスプレスさえ動いていれば確実に空港に行けるので、パディントン駅の徒歩圏内に宿を取っておいた方が帰国便に乗り遅れるリスクが低く安心できるからです。駅周辺にはリーズナブルな中級ホテルがいくつもあります。
 
旅行最終日の帰国便の出発が夕方なら、ホテルをチェックアウトした後は駅の荷物預かり所(Left luggage)にスーツケースを預ければギリギリまで観光できます。駅構内の2軒のスーパーは夜遅くまで営業しており個人旅行者にはありがたい存在です。

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【08】

ステーション ホテル

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駅に併設されているホテルは、P.C.ハードウィックの設計で1874年に竣工しました。当初はグレート ウェスタン ホテルとして、現在はヒルトン ロンドン パディントンとして営業しています。
名称

パディントン駅

Paddington Station

設計者

イサムバード キングダム ブルネル + マシュー ディグビー ワイアット

Isambard Kingdom Brunel + Matthew Digby Wyatt

ニコラス グリムショー

Nicholas Grimshaw

所在地

ロンドン、イギリス

Paddington Station, London W2 1HQ, UK

用途

竣工

1854年、改修 1999年

構造

鉄骨造

交通

鉄道:ナショナル レールまたは地下鉄の Paddington 駅下車

マーカー左からパディントン駅、地下鉄パディントン駅


補註

  1. Isambard Kingdom Brunel(1806〜1859)。19世紀のイギリスを代表するエンジニア。土木構造物・建築物から蒸気機関車や蒸気船の設計まで幅広く活躍した。鉄道分野の国際的な賞であるブルネル賞は彼に由来する。

参考文献

  1. 『世界の建築・街並みガイド2 イギリス/アイルランド/北欧4国』20頁、エクスナレッジ
  2. 『ヨーロッパ建築案内3』49頁、TOTO出版
  3. 『地球の歩き方 BY TRAIN イギリス鉄道の旅 』2004-05年版、155頁、ダイヤモンド社

リンク

  1. パディントン駅イザムバード・キングダム・ブルネル ウィキペディア

公開日:2005年3月12日、最終更新日:2013年1月17日 文章と写真を一部修正し、スライドショーに写真を追加、撮影時期:2004年9月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)

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