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北九州市立戸畑図書館 ( 3/4 )
Kitakyushu City Tobata Public Library
福岡県北九州市、福岡県営繕課 + 青木茂、1933(昭和8)・2014(平成26)年
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【301】2階 一般図書室

内部は大幅に改修

竣工時の姿を保った外部に対して、内部は大幅な変更が加えられています。リノベーションで元の建築をどの程度改修するかはケース バイ ケースですが、青木氏が行うリファイン建築では、内装など非構造部材をすべて撤去してスケルトン状態に戻した後、新たな部材を付け加えて外観上は全く別の建築へと生まれ変わらせます。ただ、戸畑図書館の場合は外観は変更しない方針なので、外部に耐震補強材を取り付けるわけにはいきません。そこで、内部を補強しながら昔の庁舎建築をどのように現代的な図書館に再生するか、これがポイントになります。

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【302】1階 ロビー
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【303】1階 通路
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【304】1階 アーチフレーム下部

耐震補強

エントランスを入ってすぐのところはロビーです。上部の吹き抜けはリノベ時に床を抜いたもので、空間的な演出効果はもちろん、構造上有利になるよう建物を軽量化する意味があります。壁・柱・天井は白一色に塗装、床もフローリングやタイルカーペットに張り替えられ、明るく親しみやすい空間に仕上がっています。
 
そして存在感を放っているのがグレーに塗られた鋼製の耐震補強材。4本の柱をアーチ状の部材でつないで枡形のフレームを作り(設計者はアーチフレームと名付けている)、これが建物の中心となる1・2階の通路部分に連続的に配置されています。耐震改修上、補強材の露出はやむを得ませんが、閲覧スペース等には突き出ていないので使い勝手への影響はほとんどないでしょう。この部材はアーチに見えますが実際はトラスであり、その構造上支障のない部分に円い穴を開けることで、見た目の無骨さの緩和を図っています。柱の上下がくびれているのは既存梁との干渉を避けるため。グレーに塗装して白い空間の中にあえて鉄骨の存在を目立たせたのは、既存と増築の区別を付けるためと、製鉄の街という地域の歴史性の表現でもあります。なお、アーチフレームの他にも基礎や塔屋に補強が施されています。構造を担当したのは金箱温春氏という有名な構造設計者です。リ4

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【305】1階 地域学習室
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【306】1階 宗左近記念室
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【307】1階 郷土資料室

1階

リノベ後の主な機能はもちろん図書館ですが、一般図書室は2階に置かれ、1階にはカフェテリア、こども図書館、地域学習室、事務室、そして戸畑出身の詩人 宗左近の記念室や郷土資料室といった諸機能が配置されています(室名は図書館のパンフレットによる)。地階は主に書庫(一般の立ち入りは不可)。

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【308】2階 吹き抜け
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【309】2階 一般図書室
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【310】2階 トップライト

2階

2階はほぼ全て一般図書室、つまり開架閲覧室で占められていて、間仕切りを設けず書架も低めに抑えることで、見通しの良い空間になっています。吹き抜けによる1〜2階の視覚的なつながりも効いています。トップライトはクレーンでアーチフレームを運び込むために設けられたものですが、それ以外に、躯体の軽量化や、電力供給が途絶えた災害時に通風・採光を確保する意味があります。

平面図

1・2階平面図 現地の案内板から引用。全体的な形状は逆T字型というか山の字型で、底辺が東立面(ファサード)にあたる。

コストの都合上、天井を張ることができず配管類は露出しているものの、商業施設等でよく見られるデザインなので、ほとんどの人は図書館でも抵抗を感じないでしょう。しかも、ロの字型に組まれた蛍光灯が適度に目立つことで、配管の存在感が抑えられています。この照明デザインはスカイツリーを手掛けた戸垣浩人氏(シリウスライティングオフィス)の仕事です。リ5

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【311】2階 一般図書室
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【312】2階 一般図書室
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【313】2階 合わせ鏡とトップライト

合わせ鏡の意味

逆T字型平面の上に突き出た部分は、他の一般図書室よりも天井がやや高くなっています(写真312・313)。ここは市役所の議場だったところで、区役所時代に床を増築して上下2層に分かれていましたが、リノベに際して増築部分を撤去、元の広い空間に戻りました。

アートプラザ、北九州市立中央図書館

左:旧・大分県立図書館、現・アートプラザ、右:北九州市立中央図書館の閲覧室

両端の壁の上半分は鏡張りになっていて、合わせ鏡によって奥行きが無限に延びているように見えます。これは単なる遊びではなく、日本を代表する建築家 磯崎新氏に対する青木氏のオマージュ。磯崎新氏は、初期の代表作である旧・大分県立図書館をプロセス プランニング 註7 という彼独自の建築思想に基づいて設計しました。磯崎氏と同じ大分出身の青木氏は、倉方俊輔氏(大阪市立大学、建築史)と対談で「磯崎さんが提唱したプロセスプランニングを、どう解析し直すかというのは、ある意味、自分の使命みたいなもの」と述べています 参4 。筆者は、直接的なイメージとしては北九州市立中央図書館の閲覧室が思い浮かびました。同じ市内にあるので、見学の際はぜひふたつの図書館を見比べてみてはいかがでしょうか。


補註

  1. 塔屋の最下階(屋上と同レベル)が3階に該当し、その上部に3階建ての塔屋が載る。
  2. 黒崎播磨は北九州市に本社を置く耐火物の大手メーカーでタイル等も製造している。工業炉に用いる耐火レンガを製造・販売する黒崎窯業として1918(大正7)年に創業、2000(平成12)年にハリマセラミックと合併して現社名となる。戸畑図書館の外壁タイルが黒崎播磨製(正確には当時の黒崎窯業)であることは、『新建築』2014年7月号巻末のデータ欄に記されている。
  3. 大牟田市役所庁舎は筆者の個人サイトで紹介している。
  4. 帝冠様式(ていかんようしき) 昭和初期ナショナリズムの台頭を背景として、無国籍または国際的な様式の近代主義建築に対抗して主張された様式。構造は鉄筋コンクリート造または鉄骨造で、これに伝統的な屋根を載せるのを最大の特徴とする。日本風および東洋風と称しながら実際には中国風の色彩が強い外観を持つ。(彰国社『建築大辞典 第2版』から一部引用)
  5. 戸畑C街区整備事業(という名前の建築)は、戸畑祇園山笠という地域の祭りの観客席として使うため、まるで屋外競技場のスタンドのような形が特徴である。現在の戸畑区役所はスタンドの下部に収まる。この複合施設には他に障害者福祉施設、保育園、集合住宅が入っている。掲載誌『新建築』2007年10月号
  6. 当初、青木氏はリファイン建築と呼んでいて、古い資料にはその用語で載っているが、後にリファイニング建築と呼称を改めている。
  7. 用途変更・改修・増築などの時間的な変化が生じることが明らかな場合において、計画段階でそれらを想定しつつ、設計を行なう方法論である。時間的な要因を設計に組み込むことよって、時間的推移のなかでのある時点における意思決定の集積が空間を創造していく、と磯崎は述べている。(ウェブサイト「アートスケープ」の用語集アートワードから一部引用。当該項目へのリンク

 
参考文献

  1. 『新建築』2014年7月号、新建築社
  2. 『日経アーキテクチュア』2014年5月10日号、日経BP社
  3. 『リファイニングが導く公共建築の未来』青木茂、総合資格
  4. 三晃金属工業広報誌Sanko No.305(PDF)対談「旧戸畑区役所を図書館にリファイニング」青木茂・倉方俊輔
  5. 鴻池組技術広報誌ETバックナンバー2014年 > 474号「歴史的建築物の外観デザインを保った耐震改修」宮﨑信宏(鴻池組九州支店工事事務所) リノベーション工事の施工は鴻池・九鉄JVによる。鴻池組は元の戸畑市役所の施工者でもある。
  6. 全日本建設技術協会機関誌 月刊建設VOL.57 2013年12月号 特集 快適な生活空間の実現 >「多世代交流を実現する都市空間の整備について」(PDF)森永修一(北九州市建築都市局計画部事業調整課事業調整係長)

 
リンク

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  8. 戸畑区青木茂(建築家) ウィキペディア
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