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本渡 瀬戸歩道橋 ( 1/2 )
Hondoseto Footbridge
熊本県天草市、パシフィック コンサルタンツ 、1978(昭和53 )年
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【01】
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【02】

橋梁建設の経緯

熊本県の西に浮かぶ天草諸島。その主要な島である上島(かみしま)と下島(しもしま)の間は、本渡瀬戸(ほんどせと)という川と見紛うような狭い海峡で隔てられています。漁業が盛んな天草では船の交通量も多く、陸上交通と両立させるため当初は海峡に跳開式可動橋(跳ね橋)が架かっていました。しかし、車が増加するにつれて、橋桁が跳ね上がるたびに通行が遮断される可動橋では不便になり、1974(昭和49)年に固定橋の天草瀬戸大橋(写真01の背後)に架け替えられます。
 
天草瀬戸大橋は船が通過できるよう橋桁の位置が高く、したがって両岸の取り付け道路も長大になりました。これでは車はともかく、徒歩や自転車でこの橋を渡るのはかなりきついため、別途、歩行者用に本渡瀬戸歩道橋が架けられたというわけです。

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【03】

昇開式可動橋

本渡瀬戸歩道橋は旧橋と同じく可動橋ですが、旧橋が跳開式だったのに対してこれは昇開式が採用されています。昇開式とは橋桁がエレベーターのように上下に動くタイプで、橋桁の両側に建つ2本の塔が特徴的です。赤い塗装は船舶からの視認性を高めるためでしょう。昇開式では筑後川の河口付近に架かる筑後川昇開橋(佐賀・福岡県)が特に有名。
 
下の4枚は橋桁が上昇する様子です。船の高さに合わせて橋桁を上昇させているらしく、私が見ていたときに通過したのは小型船だったので、橋桁も本来の半分程度しか上がっていません。
 
また、決まった時刻に開くのではなく、写真には写っていませんが橋のたもとの制御室に係員が常駐しており、船が接近したらその都度昇開しているようです。

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【04】橋桁が動く際は遮断機が下りて信号が赤になる

本当に有用な可動橋

私がこの可動橋を見つけたのは牛深ハイヤ大橋に向かう途中のこと。あちらは世界的建築家のレンゾ ピアノが設計し、橋梁の世界では有名な賞も受賞している一方、本渡瀬戸歩道橋はとりたてて有名でも何でもない地味な存在に過ぎません。しかし、同じ日に二つの橋を見た私は、率直にいって本渡瀬戸歩道橋の方により魅力を感じました。
 
その理由のひとつは両者の存在意義です。確かに牛深ハイヤ大橋は美しいものの、牛深港のバイパスルートとして本当に必要なのか交通量の少なさを見ると疑問で、私はあの橋を素直に賞賛できない気持ちが若干あります。
 
それに比べると本渡瀬戸歩道橋は、私がこの場にいた小一時間のあいだにも人が橋を渡り、船が来る度に橋桁が昇降していました。船舶がほとんど通過しなかったり観光地の施設だったりする可動橋もある中、本当に有用な可動橋は実は珍しいのです。

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【05】

土木とヒューマンスケール

もうひとつの理由はスケール感。必要性はともかく、バイパスルートとして建設された牛深ハイヤ大橋は、効率とスピードと重視した車社会の産物といえます。対する本渡瀬戸歩道橋は、そもそも歩道橋なだけに土木構造物にしてはヒューマンスケールが感じられます。

待つ不便さを楽しみに変える可動橋

また、船が通過する際は歩行者が待たなければならない、つまり歩道橋といいながら実際は船を優先している可動橋は、都会の生活からは縁遠くなってしまった舟運という交通・輸送手段の存在を思い出させてくれます。都会で舟運が復活するには、可動橋を設置して船が通過する間、市民が待つことを甘受しなければなりません。その不便さを楽しみに変える力が可動橋にはあると思うのです。

名称

本渡瀬戸歩道橋

Hondoseto Footbridge

設計者

パシフィック コンサルタンツ

Pacific Consultants

所在地

熊本県天草市志柿町・亀場町

用途

橋(歩道橋)

竣工

1978(昭和53)年

構造・規模

構造:鉄骨造(可動橋としての構造は昇開式)

橋長:124.8m(昇開部 58.0m)

交通

車:九州自動車道 松橋ICを下りる > 三角港 > 橋を渡って天草を南下 > 本渡瀬戸


補注

  1. 竣工年について、熊本港湾・空港整備事務所のサイトには「昭和52年度に完成」と載っている。「年度」であって「年」ではないことに注意。本稿が1978(昭和53)年竣工としたのは『九州橋紀行』の記載による。

リンク

  1. 天草瀬戸大橋可動橋 ウィキペディア
  2. 国土交通省 九州地方整備局 熊本港湾・空港整備事務所 > 港湾・空港紹介(管轄区域) > 本渡瀬戸航路
  3. 九州の橋 > 天草の橋 > 本渡瀬戸歩道橋
  4. Amakusa46.com > 天草 Bridge 橋 > 【橋】私の中での橋ナンバー1★赤橋(瀬戸歩道橋)
  5. レイル・マガジン > 台車近影 > その11 天草 瀬戸歩道橋

参考文献

  1. 『九州橋紀行』九州橋梁・構造工学研究会、西日本新聞社

公開日:2004年8月15日、最終更新日:2011年8月20日、撮影時期:2002年11月
カメラ:Nikon COOLPIX775(Photoshopで修正)

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