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テート モダン ( 1/2 )
Tate Modern
ロンドン、 G.G. スコット + ヘルツォーク アンド ド ムーロン、1952・2000
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発電所を美術館に再生

テムズ川を挟んでセント ポール大聖堂と向き合う形で位置する、中央に煙突がそびえた建築物。これが2000年のオープン直後からロンドンの新名所になった現代美術館のテート モダンです。元はバンクサイド発電所という火力発電所で、1952年に電力供給を開始しましたが、1981年に操業を停止。発電所として機能した期間は30年程度と短命に終わりました。
 
その後、空き家となった建物にイギリスを代表する美術館のテート ギャラリー(現在のテート ブリテン)が目を付けました。増え続けるコレクションの展示・収蔵スペースに困っていたテート ギャラリーは、旧発電所を現代美術館に改修して現代美術はそちらに移す計画を立て、改修を行う建築家をコンペで募りました。このコンペに勝利したのが、スイスの2人組建築家ヘルツォーク&ド・ムーロン(H&deM)です。既にスイス国内の仕事で注目されていましたが、テート モダンが彼らの実質的な世界メジャーデビュー作といえます。

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ロンドンの歴史を体感

テート モダンとセント ポール大聖堂の間を流れるテムズ川には、ミレニアム ブリッジという先進的な橋が架かっています。現地を訪れたら、まず橋の上から煙突とドームというふたつのランドマークが生み出す景観をじっくり鑑賞するとよいでしょう。セント ポール大聖堂のドームの111mを超えないよう、テート モダンの煙突の高さは少しだけ低い99mに抑えられています。
 
バロックの大聖堂、アールデコの旧発電所、ハイテクな吊り橋 ─ 三者三様に個性的な建造物の間を往来すると、近世から現代に至るロンドン都市史のダイナミズムを味わうことができて実に刺激的です。伝統を重んじる一方で新しいものを随時取り入れてきたロンドンの歴史が実感できます。

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外観の特徴

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建物に近づき巨大なレンガの壁面の前に立つと、ここがかつて発電所だったのだと気付かされます。美術館への改修を手掛けたH&deMは、 プラダ ブティック青山(東京都)をはじめ、個性的な表層のデザインが特徴ですが、テート モダンはその意味での作風はあまり感じません。外観の大きな変更点といえば上部のガラスボックスぐらいで、それも抑制的なデザインにとどまっています。つまり、あれだけオリジナリティのある建築家でも、古い建築のリノベーション/コンバージョンにおいては、元の建物の歴史性を尊重する手法を選択しているわけです。
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タービンホール

中に入ると、大空間の中心に向かって大きなスロープが続いています。スロープは単にバリアフリーというだけでなく、来場者の意識をアート体験に向けて切り替える装置でもあるのです。この空間は発電所のタービン室だったところで、現在はインスタレーションの展示空間として使われています。名前はタービンホール。世界的に注目を集める作品が次々と発表されています。
 
ここはトップライトから自然光を取り入れています。タービンホールだけでなく他の展示室にも窓がありました。従来の美術館では作品の劣化を避けるために展示室は完全な人工照明でしたが、最近の美術館はあえて自然光を入れる場合が増えています(もちろん紫外線はカットしているはず)。

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構造と様式

タービンホールの内部に鉄骨が露出していることから分かるように、この建物は鉄骨造であり、外壁のレンガは荷重を負担しておらず、構造的にはまったくの現代建築です。戦後に建てられた産業施設ならば、その外観も機能主義的なデザインでよかったと思うのですが、アールデコのデザインになったのは、やはり発電所の設計者であるジャイルズ ギルバート スコットの好みによるところが大きいでしょう。

熱心な来場者

筆者が訪れた平日も、難解な現代美術の展示施設であるにもかかわらず来場者がとても多く、特に多くの学生が熱心に模写をしている様子に感心しました。また、時系列ではなく関連するテーマで並べるというユニークな展示方法は、分かりにくいという批判はあるものの、作品を理屈ではなく感覚的に見るように促す効果があると感じました。

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カフェからの眺望

最上階(外観写真のガラスボックス)にはカフェとレストランが入っています。カフェは座席数が少ないので混雑時には座れないかもしれませんが、その際でも立ち入りはできます。時間の都合で作品鑑賞はパスしたとしても、カフェの眼前に広がる都市景観だけはぜひ見ておくことをおすすめします。

コンバージョンのお手本

最近、日本でも事例が増えつつあるリノベーション(改修・改築)やコンバージョン(用途転換)、つまり古い建物を再生する方法は、ヨーロッパでは以前から行われてきました。とりわけテート モダンは、発電所から美術館へと全く異なる用途への見事な転換を遂げて、経済・観光・文化など多方面で大きな成功を収めた、リノベーション/コンバージョンの最も良いお手本といえます。

名称

テート モダン(テイト モダンとも)

Tate Modern

旧名称

バンクサイド発電所

Bankside Power Station

設計者

発電所:ジャイルズ ギルバート スコット Giles Gilbert Scott

美術館:ヘルツォーク アンド ド ムーロン Herzog and de Meuron

所在地

イギリス、ロンドン

Bankside, London SE1

用途

竣工時:発電所、改修後:美術館

竣工

発電所:1952年(工事完了は1963年だが発電が始まった年を一応の竣工年とする)

美術館:2000年

構造

鉄骨造

交通

鉄道:地下鉄 Blackfriars 駅で下車、ミレニアム ブリッジを渡る。徒歩約10分

備考

開館時間は公式サイトで確認のこと

上からセントポール大聖堂、ミレニアム ブリッジ、テート モダン


公開日:2005年11月20日、最終更新日:2013年8月17日 文章と写真を修整し、3ページを2ページに再構成、撮影時期:2004年9月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)

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