建築の見所も多いキュー植物園
開設以来250年にわたる歴史と膨大なコレクションを誇る世界屈指の植物園であるキュー王立植物園。ロンドン西部に広がる132ヘクタール(約40万坪)もの敷地には様々な庭園が造られており、ガーデニングや草花が好きな人には1日では回りきれないほど楽しめる場所です。また、植物園以前の王宮時代の建築や、庭園のフォリー(添景となる建築物)、そして開設から現代までに建てられた温室など、建築ファンにも意外と見所が多い場所でもあります。園内の温室建築群のうち、本稿ではテンパレート ハウスを紹介します。なお、改修工事のため2013年8月から2018年までテンパレート ハウスは閉鎖されるとのこと。その間、内部は見学できませんのでご注意ください。
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キュー植物園最大の温室
テンパレート ハウスは4800平米(建築面積)を有するキュー植物園で最も大きな温室です。1862年に中央棟(写真02~04)と両側にある8角形のパヴィリオン(写真07)がまず完成、その後、資金不足による中断期間を経て、1897年に南棟が、1899年に北棟(写真06)が完成し現在の姿になりました。テンパレート ハウスを設計した建築家デシマス バートンは、パーム ハウスの設計者でもあります。1848年に竣工したパーム ハウスは、キュー植物園最初の大温室にして同園を代表する建築物です。パーム ハウスはバートンと技師のリチャード ターナーとの共同設計で、しかも実際はターナーの功績が大きかったといわれていますが、テンパレート ハウスの方はバートンが単独で設計しています。
対照的なふたつの温室
パーム ハウス
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静的な建築
両側の建屋はそれ単独でも温室として通用する大きさです。個々の建屋が左右対称形な上に全体も左右対称なので、確かに見応えはあるものの大規模建築にしては迫力や躍動感に乏しく、まるで霊廟のように静的な印象を受けます。
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小屋組
内部に入って上を見ると、アーチの上に寄棟屋根を組んでいることが分かります。外観の壮麗さに比べると、部材が複雑に入り組んだ架構はスマートとは言い難い。むしろ、8角形建屋の方がシンプルかつ求心性があって好ましく感じました。
名称 | テンパレート ハウス(テンペレート ハウスとも) Temperate House |
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設計者 | デシマス バートン Decimus Burton |
住所 | イギリス ロンドン リッチモンド キュー王立植物園 Royal Botanical Gardens Richmond, Surrey TW9 3AB |
用途 | 温室 |
竣工 | 第1期:1862年、第2期:1899年 |
構造、規模 | 構造:鉄骨造、建築面積:4800m2 |
交通 | 鉄道:District 線または North London 線の Kew Gardens 駅で下車、ヴィクトリア ゲートまで徒歩約10分 |
備考 | 世界遺産(植物園全体) 2013年8月から2018年まで改修工事のため閉鎖中 |
左からテンパレート ハウス、パーム ハウス、プリンセス オブ ウェールズ コンサバトリー
補註
- クリスタル パレス(水晶宮)は、ロンドンのハイド パークで開催された第1回万国博覧会のパビリオン。当時としては前例のない鉄とガラスの大空間であり、しかもプレファブリケーション(工場で製造した部材を現場で組み立てる)によって短期間で完成した。建築史上、極めて重要な意味を持つ建築である。
- ジョセフ パクストン Johseph Paxton(1803~1865、イギリス)。庭師としてキャリアをスタートするが、エンジニアや実業家として幅広く活躍した。チャッツワースの庭園で多数の温室を手掛け、その経験からクリスタル パレスを設計した。
参考文献
- 『人工楽園 19世紀の温室とウィンターガーデン』シュテファン コッペルカム著、堀内正昭訳、鹿島出版会
リンク
- キュー王立植物園 公式サイト日本語版 > Temperate House restoration project 改修計画について(英語)
- 英国ニュースダイジェスト > 初心者でも楽しめる英国の花 キュー・ガーデン・ガイド
- アーバン・ガーデン・ウォッチング > ヴィクトリア朝の大温室:キューガーデンのテンペレイトハウス
- イギリスの片隅で庭仕事 > キュー・ガーデンズ2 テンペレート・ハウス
- キューガーデン ウィキペディア
公開日:2013年9月14日、最終更新日:2013年9月14日、撮影時期:2004年9月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)