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テンパレート ハウス ( 1/2 )
Temperate House
ロンドン キュー植物園、デシマス バートン、1897年
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建築の見所も多いキュー植物園

開設以来250年にわたる歴史と膨大なコレクションを誇る世界屈指の植物園であるキュー王立植物園。ロンドン西部に広がる132ヘクタール(約40万坪)もの敷地には様々な庭園が造られており、ガーデニングや草花が好きな人には1日では回りきれないほど楽しめる場所です。また、植物園以前の王宮時代の建築や、庭園のフォリー(添景となる建築物)、そして開設から現代までに建てられた温室など、建築ファンにも意外と見所が多い場所でもあります。園内の温室建築群のうち、本稿ではテンパレート ハウスを紹介します。なお、改修工事のため2013年8月から2018年までテンパレート ハウスは閉鎖されるとのこと。その間、内部は見学できませんのでご注意ください。

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キュー植物園最大の温室

テンパレート ハウスは4800平米(建築面積)を有するキュー植物園で最も大きな温室です。1862年に中央棟(写真02~04)と両側にある8角形のパヴィリオン(写真07)がまず完成、その後、資金不足による中断期間を経て、1897年に南棟が、1899年に北棟(写真06)が完成し現在の姿になりました。テンパレート ハウスを設計した建築家デシマス バートンは、パーム ハウスの設計者でもあります。1848年に竣工したパーム ハウスは、キュー植物園最初の大温室にして同園を代表する建築物です。パーム ハウスはバートンと技師のリチャード ターナーとの共同設計で、しかも実際はターナーの功績が大きかったといわれていますが、テンパレート ハウスの方はバートンが単独で設計しています。

対照的なふたつの温室

パーム ハウス

パーム ハウス

どちらも同じ植物園に建てられた19世紀の温室ですが、両者のデザインは実に対照的です。パーム ハウスは、高木を植えるために必要な空間を構造力学、部材の使用量、施工性の点で最もシンプルな工法であるヴォールトによって実現しており、その合理的なデザインは現代でも十分通用します。一方、テンパレート ハウスは、中央と両端の寄棟建屋とこれらを連結する8角形建屋の計5棟で構成され、エントランスや柱に装飾が施されるなど、より複雑で技巧的です。機能的な温室に徹したパーム ハウスに比べると、テンパレート ハウスは“建築”たらんとする設計者の強い意志が表れています。つまり、ターナーやクリスタル パレス 註1 を設計したジョセフ パクストン 註2 といった技術者達が、温室を通じて革新的な建築を創出したことを受け、建築家側がその温室にも従来の作法を適用して伝統を守ろうとした、と見ることができるでしょう。本流の建築家が手掛けただけあって、全体のバランスからディテール、そしてランドスケープまでさすがによくできています。
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静的な建築

両側の建屋はそれ単独でも温室として通用する大きさです。個々の建屋が左右対称形な上に全体も左右対称なので、確かに見応えはあるものの大規模建築にしては迫力や躍動感に乏しく、まるで霊廟のように静的な印象を受けます。

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小屋組

内部に入って上を見ると、アーチの上に寄棟屋根を組んでいることが分かります。外観の壮麗さに比べると、部材が複雑に入り組んだ架構はスマートとは言い難い。むしろ、8角形建屋の方がシンプルかつ求心性があって好ましく感じました。

名称

テンパレート ハウス(テンペレート ハウスとも)

Temperate House

設計者

デシマス バートン

Decimus Burton

住所

イギリス ロンドン リッチモンド キュー王立植物園

Royal Botanical Gardens Richmond, Surrey TW9 3AB

用途

温室

竣工

第1期:1862年、第2期:1899年

構造、規模

構造:鉄骨造、建築面積:4800m2

交通

鉄道:District 線または North London 線の Kew Gardens 駅で下車、ヴィクトリア ゲートまで徒歩約10分

備考

世界遺産(植物園全体)

2013年8月から2018年まで改修工事のため閉鎖中


補註

  1. クリスタル パレス(水晶宮)は、ロンドンのハイド パークで開催された第1回万国博覧会のパビリオン。当時としては前例のない鉄とガラスの大空間であり、しかもプレファブリケーション(工場で製造した部材を現場で組み立てる)によって短期間で完成した。建築史上、極めて重要な意味を持つ建築である。
  2. ジョセフ パクストン Johseph Paxton(1803~1865、イギリス)。庭師としてキャリアをスタートするが、エンジニアや実業家として幅広く活躍した。チャッツワースの庭園で多数の温室を手掛け、その経験からクリスタル パレスを設計した。

参考文献

  1. 『人工楽園 19世紀の温室とウィンターガーデン』シュテファン コッペルカム著、堀内正昭訳、鹿島出版会

リンク

  1. キュー王立植物園 公式サイト日本語版 > Temperate House restoration project 改修計画について(英語)
  2. 英国ニュースダイジェスト > 初心者でも楽しめる英国の花 キュー・ガーデン・ガイド
  3. アーバン・ガーデン・ウォッチング > ヴィクトリア朝の大温室:キューガーデンのテンペレイトハウス
  4. イギリスの片隅で庭仕事 > キュー・ガーデンズ2 テンペレート・ハウス
  5. キューガーデン ウィキペディア

公開日:2013年9月14日、最終更新日:2013年9月14日、撮影時期:2004年9月
カメラ:Panasonic LUMIX DMC-FX1(Photoshopで修正)

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