閘門の構成
このページでは、三池港の歴史的な中心である閘門と船渠について説明します。前ページの模型写真や航空写真で見たように、三池港の船渠は三角フラスコのような形をしていて、“首”の付け根に当たる位置に正方形の島がふたつ並び、その中央に閘門と可動橋、両側にスルース ゲート、北側の島に閘門の動力源であるポンプ室が設置されています。
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閘門と可動橋
閘門の開き方は両開きで、本稿の写真はすべて門扉が開いた状態です。筆者は現地を何度か訪れたものの、残念ながら閉門状態は見たことがありません。写真202右手前の板張りが門扉の上面。203に写っている門扉上部は海水を通すようになっており、本体は海面下に沈んでいて満潮時は見えません。閘門部分の水路幅は約20m、通過可能な船の最大幅は18.5mです。閘門を閉じると干潮時でも船渠は8.5mの水深が保たれ、1万トン級の船舶が接岸できます。門扉の材質は木材と鋼材。木材はグリーンハートという南米産のもので、その高い強度と耐久性には定評があり、水門や桟橋といった海中構造物によく使われます。閘門の設計・製作はイギリスのテムズ シビル エンジニアリング社が担当しました。
閘門が閉じていれば作業員はその上を通って対岸を行き来できますが、開門時は船渠をぐるっと迂回しなければなりません。そこで、閉門時もすぐ渡れるよう1937(昭和12)年に可動橋が架けられました。橋桁の動き方は日本では珍しい引き込み式で、これは文字通り橋桁が護岸のピット内に引き込まれる仕組みです。設計・製作は三池炭鉱の機械部門である三井三池製作所。
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スルース ゲート
閘門の両側にはスルース ゲートという扉が上下移動するタイプの水門があります。スルース ゲート自体は農業用水路などによく使われますが、三池港の場合は、大型船が入港した際、海水を逃がすために設置されました。支柱はレンガ造。船渠側は水の抵抗を抑えるよう三角状の水切りが付いていて、先端と上部だけは石造です。歯車・シャフト・チェーンといった扉を動かす装置がむき出しになっている姿が、いかにも明治の機械らしくて味わいがあります。
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水圧ポンプ
閘門は水圧シリンダーで動きます。水路上の北側の島には、水圧を作り出すポンプとその機械を収める小屋があり、これらもおおむね竣工当時のままと思われます。つまり、閘門に関わる設備一式が明治時代のまま現役。当時の設備が稼働状態にある例は珍しく、これこそ三池港が産業遺産として高く評価されているポイントです。
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石炭船積機と貯炭場は撤去
ただ、かつて石炭運搬船で賑わった船渠も今はひっそりとしています。全盛期は岸壁に3基が並んでいた石炭船積機(ダンクロ ローダー)は2004(平成16)年に最後の1基が撤去され(筆者は未見)、三池炭鉱専用鉄道本線から多数の側線が延びていた貯炭場は道路と遊休地に変貌(写真213)。護岸の石積みだけが当時の面影を伝えています。