ロンドン市庁舎
ロンドン市庁舎 ( 3/5 )
London City Hall
ロンドン、 ノーマン フォスター、2002
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内部空間

3ページ以降は内部を紹介しましょう。私はオープンハウス ロンドンという建築公開イベントの期間中に訪れたので、内部をじっくりと見ることができました。なお、普段にどの程度まで公開しているのかはよく分かりません。少なくともオープンハウスの前日に訪れたときは議場や螺旋階段には入れませんでした。
 
見学の順路としては、まずエレベーターで最上階の展望室に上がります。London's Living Roomと名付けられた展望室は、建物自体がさほど高くないので遠くまで見渡せるほどではないのですが、タワーブリッジやシティがよく見えて気持ちのいいところです。
 
そして最上階から螺旋階段を下りていきます。市庁舎の最大の見所はなんと言ってもこの螺旋階段。上から下に末広がりになっている上に、建物の傾斜に沿って螺旋の軸も傾いているという、実に複雑な構造をしているのです。

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議場の上に螺旋階段

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螺旋階段が末広がりなので、下りるにつれて下の様子が見えてきます。螺旋階段の下、つまり吹き抜け空間の底部には議場があります。率直にいって、真上から見下ろされるのは落ち着かないと思うのですが、議員の気分はどんなものなのでしょう。もしかしたら、実際のところは未確認ですが、議会を開いているときは螺旋階段は立ち入り禁止なのかもしれません。なお、傍聴席は別途あります(次のページの写真42)。
 
ともあれ、議員とは市民の上に立つ存在ではなく市民のために奉仕するものなのだということを、これ以上ないくらい明白に表現した空間なのは確かです。さすが議会制民主主義発祥の国だけのことはある、というべきでしょうか。
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螺旋階段の構造

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下から見上げると渦巻きを思わせる螺旋階段の迫力に圧倒されます。しかも、この階段を支えている片持ち梁とスチールロッドが目立たないようにデザインされているので、まるで宙に浮いているかのように見えるのです。
 
こんな細い部材で支えきれるのか、大人数で歩いたらかなり揺れるのではないか、頭上にこんなものが吊り下がっていては議員は落ち着かないのではないか、といった疑問が浮かびますが、実現しているからにはクリアしているのでしょう。
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デザインの意図

先ほども触れたように、螺旋の軸が傾いているので階段の全ての位置から議場が見えるわけではありませんし、それに、見下ろしたところで議員の頭頂部しか見えやしないのです。つまり、この螺旋階段に傍聴席としての機能があるとは言い難く、あくまでも「開かれた議会」を象徴的に示す存在に過ぎないように思います。
 
建物自体はエネルギー消費を抑制するために合理的な形状を追求する一方、内部にはこれも相当な労力とコストをかけて、決して機能的ではない複雑な階段を造っているというのは、客観的に考えるとチグハグな話です。
 
しかし、そのような批判や疑問を差し引いても、この空間の迫力には抗いがたい魅力があります。一見、非合理的で税金の無駄遣いと思えても魅力ある建築を造ることが、結果的に都市の価値を高め、ヨーロッパの都市間競争を勝ち抜くことにつながるとの共通認識がうかがえます。

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