【202】
志免炭鉱竪坑櫓
住所:福岡県糟屋郡志免町大字志免495-3
設計:第四海軍燃料廠
竣工:1949(昭和24)年頃
備考:国指定重要文化財
竪坑櫓の役割
竪坑櫓(たてこうやぐら)とは、地下の坑道と地上とを結ぶ竪坑の上に建つ櫓状の構造物で、人員・資材・石炭を載せたカゴ(ケージ)を昇降させる設備が内部に据え付けられています。要するに、大きなエレベーターだと考えればいいでしょう。
戦時中の建設
竪坑櫓の本体工事は1941(昭和16)年に着工し、1943(昭和18)年に一応完了しました。ただし、坑道の掘削や巻上機の設置が遅れたため、本当の意味で竣工して稼働したのは戦後の1949(昭和24)年頃のようです。
長崎県の端島炭鉱(軍艦島)もそうですが、物資が統制された戦時中にこれほど巨大な構造物を建設したことには驚きを禁じ得ません。既に軍艦は蒸気機関ではなくなっていたものの、火力発電や製鉄などに石炭は必要であり、戦争遂行のために炭鉱開発は最優先事項だったことをこの巨体は物語っています。
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ワインディングタワー / タワーマシン
竪坑櫓の直下には垂直に深い穴が延びています。竪坑をケージが昇降するにはケーブルと巻上機が必要ですが、万田坑のタイプでは隣接する建屋に巻上機を設置して、ケーブルは櫓上部の滑車を通してケージとつながっています。
これに対して、志免炭鉱では巻上機を収める建屋そのものを竪坑の直上に配置しています。巻上機は数百m分のケーブルを巻き取る装置だけに重量があり、これを支える櫓も頑丈な構造物になるわけです。このように巻上機を櫓の上部に設置するタイプについては、一般にワインディングタワーという名称で呼ばれています。日本では大正時代に建設された三池炭鉱四山坑(福岡県)の竪坑櫓が同タイプの最初の事例でしたが、1996(平成8)年に解体されてしまいました。現存すれば志免とともに重要文化財の指定を受けていたでしょう。
ただし、ワインディングタワーではなくタワーマシンが正確な名称だという指摘もあることを付け加えておきます。
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ワインディングタワーの現存状況
日本でのワインディングタワーの建設例はそれほど多くありません。志免炭鉱の他に羽幌炭鉱(北海道、1965)のワインディングタワーが現存していますが、櫓全体がパネルで覆われているため特徴が分かりにくいのが惜しいところです。なお、「志免炭鉱竪坑櫓はワインディングタワーとしては国内に現存する唯一のもの」という記述がネットで散見されますが、羽幌炭鉱も残っているのでこれは不正確です。おそらく「戦争終結までの近代に建設されたもの」との条件が伝聞の過程で抜け落ちたと思われます。
また、海外も含めると現存するワインディングタワーは龍鳳炭鉱(または撫順炭鉱、中国)とトランブルール炭鉱(ベルギー)、そして志免炭鉱の3基のみといわれていますが、ヨーロッパには他にも残っているという話を筆者は産業遺産の研究者から聞いています。
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大きさ
志免炭鉱竪坑櫓は鉄筋コンクリート造で、高さ47.65m 註2-1 、長辺15m、短辺12.25m。直下には深さ430mの竪坑があります(坑口は閉塞されている)。
上部の概要
ビルを丸ごと持ち上げたような独特の形状をしていて、その「ビル」に見える部分には、ケージを昇降させる巻上機や滑車が設置されていました(機械類は現存せず)。窓の位置から5階建てに見えるものの、上3層分は吹き抜けで実質的には3階。この3層吹き抜け空間が巻上機室でした。
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下部の概要
また、物資等は突出部の底に開いた穴(右の写真)からケーブルを垂らして上げ下ろしをしていました。